【テニプリ】君と夢を見た日。【短編集】

嘘と桜吹雪【切原赤也】 ページ7

『……もしもし赤也』
『あーA？どうしたんだよ』

窓の外では桜が踊る。4月1日。君の時間は止まらないから一個学年も上がったんだろうね、羨ましいよ。

時計は午後12時1分を指す。お昼時。多分部活も休憩時間に入ってるだろうなと思って電話をかけた。

ほんとはもう、このまま何一つ知られたくなかった。だから、希望を込めて今日、勘違いしてくれたらいいななんて。

『私、実は寿命僅かなんだ、重い病気でもうすぐ死ぬの』
『は……？』

部屋に響く時計の針の進む音。隣の部屋から聞こえてくる声。風の音。

『嘘だろ……？』

それに続く次の言葉を、何も言わずにずっと待っていた。もう何も言いたくなかった。ただ春の色に目をやって返事を待つ。

『……ってそうじゃん、今日エイプリルフールだもんな、嘘だよな！もう、驚かせんなよ！』

……ああ、良かった。赤也はやっぱり変わらずに鈍感馬鹿のままだ。それから、私が少しでも貴方の中にいるからそんなに驚いてくれたんだよね、ありがとう。

『……うん、そう。嘘だよ。本当は私すっごく元気。こっちでも友達作って仲良くやれてる』

電話越しに聞こえる安堵のため息。それを聞いた私は苦しくなる。

『ごめんね、なんか赤也の声が聞きたかったの』
『別にいいって、ただちょっと心臓に悪かったけどな！』

あの頃を思い出す。凄く楽しかったあの頃。楽しかったのに、思い返して辛くなる記憶。捨てたい、でも捨てられない。

『またいつか会おーな、A！』
『……うん、そうだね』


時計の針は12時4分を指している。電話をきったそのスマホの上に一粒涙が落ちた。

たった3分の会話。それだけでも私がどれだけ幸せになったか、それからどれだけ苦しくなったか。

「……ごめん、ごめんね赤也」

＿＿もうきっと会えないよ、私。
桜吹雪、あれが見えなくなって、全て散って、夏になった頃にはもう私、

「嘘じゃないんだけどな、」

止まらない涙。もう私にその桜みたいに綺麗な未来は存在してなくて、


『私、実は寿命僅かなんだ。重い病気でもうすぐ死ぬの』

そんな自分の告白を思い出して、苦しくて咳き込んだ。

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