遡行軍のスパイの話 (ページ33)

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33話ページ33

その後、私は鶴丸さん達が帰って来る前に
天井裏に上がって設置していた盗聴器を全て回収した。
私の痕跡は何一つ残してはいけない。
出来る限り誰にも見つからずに此処を去りたい為、私はまた策を考えなければいけなかった。
悩みの種は言うまでもなく、あの三…いや二人だ。この部屋に来る頻度が高すぎる。
今がチャンスなのは分かっているが、
時間的にゲートの前で運悪く鉢合わせしてもおかしくない。

そしてもう一つの悩みは私のいる部屋が一番隅であることだ。
だからゲートに行くには必ず審神者部屋から丸見えの廊下や他の刀剣達の部屋の前を通らなければいけない。
下手に動けなかった。

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どうしたものかと頭を抱えた私に
転機が訪れたのは数日後の夜のことだった。

その日出陣後、また鶴丸さんは部屋に入ってくる。
しかし、いつものように傷だらけではなかった。
聞けば、明日演練があるそうで政府や他の審神者にバレないよう手入れをされたらしい。

「…演練？」

「ん？あぁ、君は知らんか。政府主催の審神者同士の対戦だ。他の本丸の俺達と戦うんだ」

そんなものもあるのか。いや、確か、メールに書かれていたはずだ。関係ないかと流した覚えがある。
私はへぇ…と当たり障りのない返事をした。
そこで、頭にある疑問が浮かぶ。

「それなら、その場で他の人にこの本丸の状況をお伝え出来ないんですか？」

「…それが…できないんだ。審神者の命令で訴えてはいけないといわれている」

「…そうなんですか。」

私がつい落胆の声をこぼした時
外から誰かの声が聞こえた。

「待てっ！早まるな！」

「離してください！」

「審神者を殺せば堕ちるぞ！」

誰かが懸命に止める声。
離せと言っている声は聞き覚えがある。

鶴丸さんはすぐさま立ち上がり
ここで待っていてくれと、言って
その現場に向かって行った。

開かれた襖。
外は明かり一つない闇。
持って来た機器は全て懐に仕舞われている。
1人残された部屋で私の心臓はドクンと音を立てた。

今、此処から出れば…。

そう思った瞬間、足に力が入り
私は勢いよく部屋を飛び出した。