遡行軍のスパイの話 (ページ28)

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28話ページ28

「………」
部屋の真ん中に座り天井を見上げる。
正直、今すぐに押入れに籠りたい気分だった。

何故か燭台切さんが部屋に来た日から部屋に護衛と言って誰かしら(そうは言っても鶴丸さんと燭台切さんだが)来ることになった。
お陰で様で私は全く動けない。下手なことをすれば見つかる為、気も休まらなかった。
口ではありがとうございます。と、言うが内心うんざりである。日に日に焦りばかりが募っていた。
そして、しばらくたったある日、二人揃って遠征が入ったと告げられた。
それを聞いて私が漸く動けると、ホッと息をついた束の間、まさかのあの方が私の部屋にやって来たのだ。

「……ありがとうございます。」
「いえ。」

一見穏やかそうな顔を浮かべているが、この本丸での彼の笑顔ほど信用できないものはないだろう。

「…一期一振さんは何故ここに…」
「鶴丸殿と燭台切殿が遠征ですので私が代わりに。」
「…そうですか。」

もう余計なことは言わない方が良いだろう。
私はそう思って口を噤んだ。
しかし…

「何か思う所があるようで」

一期さんは自ら私が言うまいと思っていたところに触れて来た。

「…いえ、特には。ただ…」
「ただ？」
「…理由が分からないだけです。」
「理由？」

一期さんは唯淡々と聞き返す。
私は頷いて続けた。

「貴方が私を審神者に差し出さない理由が分からないのです。」

私の瞳には疑心が映っていたと思う。
それを一期さんも感じたのか少し目を見開いた後、ふっと笑いを溢した。

「え……」
今度は私が目を丸くする番である。
今のどこに笑う要素があると言うのだ。
私が思わず眉を寄せると一期さんはすみません。と謝った。

「いえ、貴方の疑問は最もです。私は鶴丸殿と違って貴女とは殆ど関わっておりませんので。」
「………」
「しかし、女子を差し出してまで助かりたいとは思わんのです。」
「……」
「貴女から頂いたおにぎり、とても美味しかった。作って下さった方にこのような仕打ちは出来ません。」