唇とマーマレード 6

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「弁護士を立てると決めたのは渉さんです
覚えがないのに子どもができるなんて、おかしいので」

「…それでは、私も弁護士を立てます
それで、あなたとの離婚を要求します」

…それもある意味、想定内だった。

お互い弁護士を立てた方が話が早く進むわけだし、好都合なんじゃないかな。

「それでは、この先は弁護士を通じて話をした方がいいみたいですね」

私が席を立とうとすると、瑠璃子さんは慌てて止めてくる。

何？弁護士を立てるっていうのは、脅しだったわけ。

でもこの短い会話の間で、よくわかった。

瑠璃子さんのお腹の子は、渉さんの子ではないってことが。








「私が渉さんと離婚しても、瑠璃子さんと再婚するとは限らないと思いますが」

「でも渉さんが父親なわけですから、責任を取る義務はあります！」

「だからその父親である証拠ないと、責任はとれません」

「鑑定は拒否します」

話し合いは堂々巡りで、隣にいる橋本さんも溜息をつく。

「鑑定を拒否されるのなら、もうこれ以上話し合うことはありません」

強くそう言い切ったら、瑠璃子さんは急に激昴しはじめた。

「大体、あなたが現れなかったら私は今頃、結婚して子どもも生まれてたはずなのに
あなたのせいで、私の人生が狂ったのよ
責任を取ってもらわないと、私の気が済まない！」

ああ、これが…、瑠璃子さんの本当の姿なのかもしれない。

渉さんのことが好きでどうしても結婚したかったのではなく、大会社の御曹司と結婚する予定だった自分の人生を壊されたことに対して憤ってたんだ。









その後も瑠璃子さんは、ありとあらゆる罵詈雑言を私に浴びせてきた。

「この泥棒猫！」

という、昼ドラの定番みたいな台詞から、

「疫病神！」

なんていう古臭い台詞まで、橋本さんが窘めても、延々と。

私はというと、その様子をまるでドラマでも見てるかのような感覚で、冷静に眺めていた。

瑠璃子さんの私に対する憎悪は、予想してたよりもっと深いものだったんだなって。








ガチャリと重厚な音と共にドアが開いて、急いで帰ってきた風の彼が応接室に現れると、途端に瑠璃子さんはおとなしくなった。

だけど、私の隣に座った彼を睨みつけるようにして、

「私も渉さんを訴えますから！」

瑠璃子さんは、そう宣言するけど。

彼はその言葉にも、顔色ひとつ変えずに答えた。

「調停に持ち込んでもいい、ということですか？」

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