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白鷺Aの卒業ライブは、華やかだった。
セットも、照明も、衣装も、
すべてが集大成と呼ぶにふさわしかった。
けれど、その中心に立つ彼女は、
どこか現実感が薄かった。
スポットライトを浴びているのに、影のほうが先に目に入る。
輪郭が、ふっと滲む。
踊っているはずなのに、
留まっているように見えた。
歌声は、驚くほど安定していた。
息の揺れも、音程の乱れもない。
それなのに、どこか音から
一歩距離を置いているようだった。
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よく見ているファンほど、気づいた。
白鷺Aは、音を追っていない。
隣のメンバーの呼吸、振りの入り、身体の向き。
それらを見て、完璧なタイミングで動いている。
それは、努力という言葉では追いつかない域だった。
最後の曲。
会場は、異様なほど静かだった。
誰も声を出さず、誰もペンライトを振らない。
ただ、見送るという意志だけがそこにあった。
白鷺Aは、ほんの一瞬、目を閉じた。
その表情は、悲しみでも、未練でもなかった。
──────受け入れた人の顔だった。
アンコールで、彼女は泣かなかった。
微笑んで、いつも通りの声で言った。
「ありがとうございました」
それだけ。
それ以上、何も足さなかった。
それが、すべてだった。
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作者名:なこ | 作成日時:2025年12月13日 3時


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