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𓆌 ページ36





「言いてェ事を言うようになったのは褒めてやるが、自信を付ける必要もありそうだな」
「……」
「そう不安がるな。時期を見計らっていただけだ」
「時期」
「次の島にある街は質のいい服を作ると評判でな。特に花嫁衣装」
「…………、えっ?」
「……ドレスを着たいと言ったのはお前だろう」


 そう言って渡された小さな箱は、どこからどう見てもリングケースだった。手触りのよい金青(こんじょう)の毛で覆われたボックスは、私の掌に丁度収まる程度の大きさしかない。開けると中には小さなエメラルドの嵌った指輪が一つ、静かに鎮座している。



 衝撃で動けない私を見兼ねてか、彼の手がひょいと指輪を攫う。鉤爪で左腕を引かれると、銀輪は当たり前のように薬指へと通された。──その指にも、光る銀色がある。


「ムードも何もありゃしねェ」
「……これ」
「望み通り、マリッジリングだ」
「いつの間に」
「特注品でな。三日前届いた」
「作ったの……!?」
「どこぞの野郎と揃いのもんなんざいるか。あとはドレスにタキシードだったか? ……言っておくが、式は簡素だぞ」


 ぶっきらぼうに言う男の、なんと愛おしい事だろう。正直忘れられていると思っていた。海賊という立場もそうだが、面倒を厭う彼だから。

 強請った時は、否定も苦言も呈さないと喜んだものだけれど。ああしかし、本当に。


「……私、……貴方の隣にいて、いいのね」
「アァ? ……今更何言ってやがる」
「ふふ、そうね、そうなんだけど。こういうとき、しみじみと思うのよ」

 大好きな人が、自分を好いてくれること──その奇跡。


「タキシード、私に選ばせてね」
「ああ。だがドレスは諦めろ」
「え」
「もう買った」
「買っ………………」


 娘が出来たらあげようかしら、とぼやけば笑われた。








(最終話、クロコダイルが神父の台詞について言及していますが、式自体は二度目です。強請ってすぐ後、形式的に神父を挟んでの誓いを交わしています。

ドレスを着たいという願いを覚えていたので、こっそり色々調べていたそう。)


(タイトル: June_六月。ジューンブライドから。)

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おはよ - めっちゃ面白い作品でした!最高です (2023年3月20日 22時) (レス) @page44 id: d4f6705fb9 (このIDを非表示/違反報告)
白鯨(プロフ) - みうしさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます! 私としましてもまだ書きたいものが幾つかありますので、またぼちぼち気まぐれに更新しようかと思います。何卒気長にお待ちください。 (2022年11月13日 23時) (レス) @page32 id: 7a595430fd (このIDを非表示/違反報告)
みうし(プロフ) - 大好きな作品が終わってしまって寂しい〜〜泣泣と思っていたら番外編も書いてくださるんですか😭😭是非読みたいです……!! (2022年11月12日 8時) (レス) id: f1ae5cae79 (このIDを非表示/違反報告)
愛ってなんや? - 面白いです!!続き待機してます!! (2022年10月23日 14時) (レス) @page19 id: 027cc676f2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:白鯨 | 作成日時:2022年5月25日 10時

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