【歌い手】眠いけど、僕は世界と馴染みたい【男主】

わかってるけど ページ17

「行く行く行く行く行く行く行く行く」

「ダメ」

「なんでぇ」

「ダメなもんはダメ」


さっきからこの会話しかしてない。

かなさんがフライパンで何かを焼きながら僕の言葉に返事をする。
僕はソファに座って悠々と拗ねてる。


「大体今まで家からあんまり出てないお前がライブ会場なんかに行けるわけないじゃん」

「出してくれないのかなさんじゃないですか」

「あったりまえだろ。勝手に一人で出て倒れたらどうすんだよ」


ぐう正論。
こういう時は強いんだかなさん。
意志が強い。
いいところですね。長所ですね((


「だったらうらたさんと坂田さんっていう人も誘います」

「あいつらは仕事があるから無理だよ」

「そんなんわかんないじゃないですか」

「予言するから」

「酷い」


どうしてそこまで行かせたくないの？
ライブでしょ？


「なんで行っちゃダメなんですか」

「ダメだから」

「理由は」

「お前の体調と病気を考えたら当然の判断だと思うけど？」


心配してくれてるのは分かるんだけど…

分かっちゃうから、余計に悲しい。
そりゃ僕の病気は薬で抑えれたり治ったりするもんじゃないけど、僕だってもう大人なのに。
一人じゃ危ないかもしれないけど…
だったら誰か誘って行くし…


「A」


完全に拗ねた僕の前に、かなさんがしゃがむ。
フライパンの火は消したみたい。


「京だって真尋だって、お前が頼めば、すぐに協力してくれると思うよ。

でもさ、それはお前の病気の負担とか看護とかを、全部押し付けてるみたいになるんじゃないかな。

俺はそれを望んで一緒に暮らしてるけど、そうじゃない友達とか弟とかに負担をかけるのは、お前の自己満足だ」


分かってる、分かってるけど。

僕がどれだけ自己中で、自分の欲望に忠実かなんて、とっくの昔に気づいてたよ。

それでも、それでも、かなさんのそばにいたいっていうのは、そんなにいけないことなの？


「A」


優しいかなさんの声。

ふわふわした匂いが、僕を包む。

かなさんのニットが濡れていく。
そこで僕は、僕が泣いていることに初めて気づいた。





・


ライブやばかった

勢いで短編書きそう

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