追想-TUISOU-１０ Secretな彼女番外編 (ページ10)

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俺はリンが
何の話をしているのか全くわからなかったけれど

それでも、リンが何かを決心して
ポルトガルまで行こうとした惹かれる何かがそこにあったのは確かだった

「ごめんなさい・・・私
やっぱり、今は行けなかった・・・
台風のせいじゃなく・・・
ちゃんと・・・えぇ」

俺は、その言葉に、
少しだけ俺にも光がさしたのではないかと
思った

泣きはしてないけれど、
鼻をすする音
もう10年もいたら、今リンがどういう状態なのか
見ないでもわかる

「ごめんなさい・・・まだいろいろと私の中で・・・」

遠くから優しい声が俺にも聞こえ
それが俺に容赦なく突き刺す

俺意外に、心を許す相手がいたことに
現実的な距離感を実感する

やがて会話が切れ
パタンと携帯を閉じる音がした

俺は声をかけられずにいて

窓に頬杖を突くように
外を眺め続けた

やがて、よく、ガイドブックやテレビ番組で見るような街並みが目に入るも、
車の数は少なく、
沿道には、人ひとり歩いてなかった

「すごいな‥雨」

「・・だね」

ようやく、出た会話がこれだった・・・

タクシーから、途切れ途切れのラジオが流れ出う
やがて、
駅につき
俺らは、そこで降ろされ

そして、
リンは、その提示された代金よりも多くチップを支払っていた

それを見ていた俺に

「あぁ、シート濡らしちゃったから・・・申し訳なくて」

と言って、笑った

気づかなかった俺はすぐさま

「ごめん、俺払うわ」

と言ったけれど

「いいよ・・・」

と断られた

外の雨を避けるように

パリ駅の構内に駆け込む

構内には、明らかに
旅行者のような人が
右往左往していた

この大雨の中、ほとんどの店が閉まり
観光どころではなくなったのだろう

そのまま、
リンは、慣れた様子で、今度は駅構内を歩き
そして
窓口で、チケットを買った

俺の前にいるのが、
本当に、
ずっと付き合ってきた
リンなのか、疑ってしまうくらい、別人のようだった

「よかった・・・翔
この雨だから、席が空いてるって」

そう言って、俺にチケットを渡す
でも、普通を装ってはいるけれど

俺とは視線が合わないままだった

そして、再び歩き出したリンに俺は

「待てよ、リン」

と呼び止めた。