追想-TUISOU-１０ Secretな彼女番外編 (ページ43)

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「そもそも、兄とは医学部からの付き合いだったんだって
でも、まさか私がその妹なんて知らなかったみたいだけど
まぁ、吉川なんて名字もたくさんいるから
外科医だった兄は、もちろん患者に触れる機会が多く、
当時の流行病にかかり命を落としたって
でも普通今の時代、連絡の一つや二つ入りそうじゃない？」

「確かに」

「でも、彼はこう言ったの
それは私が日本という囲いで守られてるからだよ
お兄さんがいた現場は、つねに内戦と隣あわせ
現場は常に混乱していたと・・・」

「・・・」

「守られてるからこそ
見えないことがあるって言われた時、
自分を試してみたくなったというか、
守られていた壁の外で、
一旦リセットし
何が最優先か、考えるべきだと思ったんだよね」

「俺じゃダメだったってこと？」

「翔がダメってわけじゃないの
その・・・うまく言えないんだけど、
現実問題、10年前に私が
「翔、今すぐ結婚して
酒造とワイナリーを両方経営して欲しいの」
って言ってたら翔どうしてた？」

「・・・」

「ふふ、ほら何も言えない」

「ごめん」

「あはは違うの、謝って欲しい訳じゃなくて
現実、それはムリだなって思ったの
それにもうすでに
私の縁談は祖母が亡くなってから
着々と進んでたし」

「あの嵐の夜に、
そんなこと考えてたんだな・・・」

「そう、でもその当時みたいに曖昧なまま別れたら
辛くなるだけだから、
ちゃんと区切りをつけようって思ったんだ
ただ・・・」

「ただ何？」

「ん？翔との未来はそこで終わってしまったけど、
私の描いた夢は見せてあげれるかもって思ってさ」

「この景色ね」

「そういう事」

俺はゆっくりと見渡した
葡萄畑の間をトラクターがゆっくりと動いているのが見えた

「でも、泣いたなぁ
流石にあの日
翔をシャルルドゴールまで送ってからさ
号泣、全て終わったって思ったもん」

「・・・」

「あ、でもすぐに
私もリスボンに行ったけど」

「行ったのかーい」

「あはは、行った行った、その足で
だって、兄の最後を知ってる唯一の人だから
会って、話を聞いてみたかったの」

そう言って再びワインを口にした

俺は、グラスを手にしたリンを見て
あることに気づいた

「リン？ごめん
で、そのあと結婚したの？
その許嫁とやらと」