獣の海と雫の方舟 (ページ10)

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８話ページ10

シズクには失礼だが、あいつと間違われるのは嬉しくない。しっかりと訂正しておかなければ。

「…違います、俺は今日来たばかりの奴です。初めまして。」

俺がシズクじゃないと言うと彼はユキヒョウとよく似た澄んだ目を数回パチパチ瞬きさせ、軽く頭を下げる。

「新人…君？の方、か。ごめんね。じゃあ、ボクは行かなきゃだから。」

俺自身には用はないらしく、くるりと背を向け立ち去ろうと歩き出すが数歩したところで足を止める。自分からどうしたのと声をかけることが出来ずに、沈黙の時間が流れる。

数秒の沈黙を、ユキヒョウか、少年かどちらかの声が破った。小さな声で、まわりが騒がしかったのもあってどちらか判別できない。

「…君は、あの子には関わらない方がいいよ。」

「…え？」

気のせいかその言葉は冷たかった。
あの子、とは、シズクの事…だろう。彼は、シズクに何かあることを知っているのだろうか？確かに彼は、どう見ても人間では無いが彼自身がそんなに危険な存在だとはあまり思えない…。

色々と考えながら、戸の向こうへと消えた彼を暫く見つめていた。