獣の海と雫の方舟 (ページ15)

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１３話ページ15

断崖絶壁の高さから飛び降りるような恐怖を押し隠し、逃げる人々とは逆方向に走った。銃声がした方へ、悲鳴が聞こえる方へ。だんだんと、血の匂いが濃密になっていくのがわかる。教会の方だ。
細い路地を走り抜け、広い畦道(あぜみち)に出る。

そこの光景に、俺は凍りついた。

地面は赤黒いものに染まり、白いスニーカーはすぐに真っ赤に染まった。景色と濃い血の匂いで胃の物を全て吐き出しそうになるのを手で抑え、足を動かす。
横たわっているものは無惨に四肢(しし)を切断されたものや、眼球をえぐりとられた死体が横たわっている。死体の数は少ないものの荒れかたがとても酷い。

「…うっ、うぐ…。」
道の端で、倒れていた人が呻いた。よかった、この人はまだ生きている。その人のもとまで駆け寄り、常備している包帯で止血する。幸い、切り傷は大きいが深くはなく、出血が少ない。足の骨はおれているが、固定しておとなしくしていれば大丈夫だろう。

「…あ、…がと……う…。」

かろうじて聞こえる声で、男は礼を言うと遠くを指差し首を横にふった。

「…きけ、ん……だ。いく…な…。」

危険だと知らせてくれているらしい。
しかし、今ハンターと血を流しながら戦っているだろう先輩や仲間の事を考えると、自分も行かなくてはいけない。使命感というのを感じた。

「…いか、なきゃ…なんだ。」

歯を食いしばって、彼が指差した方へ向かった。