【刀剣乱舞】禍ツ神の本丸

厄災四十と四 ページ49

「ていうか……それなら服だけでも良かったんじゃ……」

「あ……」


……やはり主従なのか……

最近は加州と一緒に虧月の奇行を止める側にい

た盈月だが、今一つ抜けた行動に、怒りを通り

越して呆れに肩を落とした。



「雨に濡れたら風邪引くし、何より雨の日だからこそ着物だって乾かないでしょ？」

「そこら辺は適当にやってればいーんじゃねーですか」

「適当なとこあるよね…盈月。……主もちゃんと聞いてる？」

『ん？……うん』

「いや、絶対聞いてなかったでしょ」


面倒臭そうにぼんやりと髪を拭く盈月に加州は

ため息を溢すと、先程まで髪を拭いていた虧月

に視線を落とす。

加州の問いかけに返事は返したものの、ぼんや

りと庭を眺める虧月に加州は肩を落とした。


「本当は俺こういうの担当じゃないんだけど……。まぁ、良いや…主と盈月は風邪引かないうちにお風呂入ってきてよ。新しい服は用意しておくから」

「了解」

『はーい！』


加州の言葉に手を挙げて元気よく返事をした虧

月が、盈月を引いて風呂場へと走って行く……。


その姿に加州は呆れたように苦笑を溢すと、二

人の着物を用意すべく、室内へと歩みを進めた。


「っと……あっぶな」


しかしその歩みも止まり、慌てたように進めて

いた足を引く。


踏み止まってまで歩みを止めた原因に、加州は

膝をついて”それ”を持ち上げた。


「主のぬいぐるみ……またこんなところにほっぽりだして」


持ち上げたそれ……虧月がいつも持ち歩いている

盈月お手製猫のぬいぐるみはこれでも大切にし

ているのだろう……。何せ、破れた箇所に布でツ

ギハギしてまで使っているのだ……。


かくいう自分も元は刀と云えど同じ”物”であっ

た記憶が、それを見るだけで大切にされている

証が羨ましくもある。



……ただ、些か扱いが乱暴であることが玉に瑕ではあるが……。



「こんなになっても大切に使ってくれるんだから、お前も幸せものだよね」


このぬいぐるみにそもそも意志も魂も宿ってな

どいないが、思わずその円らな瞳を見つめて微

笑む。


無理なこととは言っても、返事も返さないぬい

ぐるみに、少し寂しさが込み上げた。



「さてと……お茶でも煎れてあげますか……」


何時までもこうしては居られないと、ぬいぐる

みを机の上に置くと、ふたり分の着物を手に部

屋を後にする。



お茶の準備に頭を埋める加州の後ろで、ぬいぐ

るみの瞳が和らいだような気がした＿＿。

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