270、続き ページ23
＿__君には、まず自分のことを好きになって欲しい。
男の人の声が聞こえる。
目の前にいるのは小さいAと、男性。
前にも夢で見た光景だ。
Aはすぐに分かった。また昔の夢を見ているんだと。
飛行機の中で見た記憶の続きが今、目の前で流れている。
男性はAに優しく声をかける。
「もっと自分を好きになってあげなさい」
…そうそう、そんなこと言われたっけ…。
「弱い自分ごと、愛して」
…今の私は、弱い自分を愛するなんて出来てないな。
「そうすれば、君は…」
…私は…？
男性が全てを言い終える前に、その映像はブツリと途切れた。
うっすら目を開けると、視界に広がるのは宿舎内のフィールドだった。
Aはベンチに座ったまま眠っていたらしい。時間も遅いのか、周りには誰もいない。
いつの間に寝ちゃってたんだな。あくびをしながら背伸びをする。
最近よく見るな。あの人の夢。
あの人の顔も、声も、一度も忘れたことなんてなかったからかな。
＿__そうすれば、君は…
君は…何だっけ。
…あの後、あの人は私に何て言ってくれたんだっけ…。
貴女「…ん？」
目をこすると、自分にジャージがかけられてあるのに気がついた。
私の？いや、私のジャージは部屋に置いてあるはず…。
名前を示すものはどこにも見当たらないが、ふんわりと柔軟剤の香りがした。
…誰の？
杏奈「A、こんなところにいたのね。ダメよここで寝たら。風邪引いちゃう」
貴女「…あ、うん…」
Aを捜しに来たらしい杏奈が入ってきた。
貴女「杏奈、持ち主不明のジャージがあるんだけど…これ誰のだろう？」
杏奈がジャージのどこかに名前が書いていないか確認した後、言った。
杏奈「分からないから、皆さんに一通り聞いてみるわね」
貴女「良いの？」
杏奈「Aは夕飯まだでしょ？持ち主は私が捜しておくから」
貴女「ごめんね、ありがとう」
…あれって、誰かが私にかけてくれたのかな？
もしそうだとしたら、誰が…？
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作者名：紅葉 | 作成日時：2019年8月23日 13時
