”彼ら”と”私” ページ10
前に、花巻が「及川のこと好きならマネでもやればいいだろ」という、いかにも彼らしい素朴な疑問を投げかけてきたことがあった。
それは、私も幾度となく思ったことだ。
マネージャーをやれば、及川と一緒にいられる時間は格段に増える。他の女子たちと圧倒的な差を見せつけることができる。
部活中の及川に黄色い声を飛ばす彼女たちとは違うところから、及川を応援することもサポートすることもできる。できることなら、そうしたい。
でも、私がそれをしない理由は端的で明確だ。
それは、私が【彼ら】の邪魔をしてしまうのが目に見えているからだ。
確かに私は、私利私欲の為にはどんな手段を使ってでも及川の一番になりたいと、そう思っている。
そうなる為には、マネージャーという手段が何よりの近道だってことも、わかっている。
でもそれをしないのは、私は中学の頃から、どんな女子よりも、彼を近くで見てきたからだ。見てきた、つもりだ。
普段はヒョウキンなくせに、バレーのことになると負けず嫌いで、勝ちに貪欲。そんな彼を。
それを決定づけたのは中学の頃。
部活終わりの及川と一緒に帰ろうと、体育館前に差し掛かった時。普段とは明らかに違う岩泉の張り上げた声に、私は息を呑んで立ち止まったのを、今でも覚えている。
「バレーはコートに6人だべや!」
その頃の及川は、何に対しても身に入っていない感じがしていた。その分、バレーに対する打ち込み方は、異常だったと知った。いつも、遅くまで自主練に励んでいた。
私にもわかるくらいに、当時の及川の様子は変だった。
私が話しかけても、本人はいつも通りを装っているつもりだろうが、人が変わったように私の知っている及川じゃなかった。
「“6人”で強い方が強いんだろうが、ボケが!!!」
体育館のドアに背を預け、唇を噛みしめ、息を殺していることしかできなかった。
その時、やっぱり私は二人の間に入ってはいけないと、そう悟った。
悔しいけど、仕方ないと納得してしまったのは、私には岩泉の代わりにはなれないからだ。
だからこそ、私は岩泉に勝てないことをわかっている。
私みたいな欲にまみれ、泥沼から抜け出せなくなった女が、【彼ら】の夢の邪魔をしていいわけがない。
真剣で、本気な【彼ら】の。
及川の邪魔を、したくない。
だから私は、マネージャーとして及川の傍にいるという選択肢を、捨てた。
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いおり - 道徳の教科書に載ればいいのにぃ!!泣くことしか出来ませんが…凄く素敵な作品で本当に号泣しました!!1日で全部読ませて頂きましたがここまで素晴らしい小説は今までで一番だと思います!! (2020年12月9日 15時) (レス) id: 5e524467c0 (このIDを非表示/違反報告)
雅 - 本編は全て夢主目線なのに他の登場人物の感情も伝わってきて、切なくなりました。作者様の描写が繊細だからこそ、読み手にしっかり伝わるのだと思います。番外編でまた深く心情が知れて切なくなりました。特にマッキーがかなりグッときました。すごく素敵な作品でした! (2020年6月22日 9時) (レス) id: 2f4dc25fc0 (このIDを非表示/違反報告)
おかか - めっちゃ面白かったです!一人一人の言動の真意とかしっかり話が作られていて、リアルで凄いです! (2020年6月21日 9時) (レス) id: 0ecde9d0b0 (このIDを非表示/違反報告)
ルーテル(プロフ) - 今まで読んだ占ツク作品で1番好きかもしれません…1人1人の心情がリアルでぐちゃぐちゃなのに真っ直ぐな恋心がとても心地いい作品でした!マッキーの切なさが一番心に来ました…いい作品をありがとうございました! (2020年5月31日 22時) (レス) id: 98b39f25a9 (このIDを非表示/違反報告)
モンブラン♪@アップルパイも捨てがたい(プロフ) - 泣いた...岩泉夢主さん好きなのかなぁ?は勘違いか...もうカッコよすぎ...ごちそうさまですっ (2020年1月13日 12時) (レス) id: 538cc2e76e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小鈴 | 作成日時:2019年10月17日 21時