勝てない言い訳 ページ5
「おーいかわっ」
あの日以来、私は週一で及川にお弁当を作っていた。
お昼休みに及川のクラスを覗き込むと、女子数人に机を囲まれた及川が私の姿を認めるなり「ごめんね」と断りを入れてこっちに来る。
ほら、及川は私を優先してくれる。
でも、絶対的に勝てない相手は存在する。
「今日も卵焼き入れてくれた？甘いの」
「勿論」
そんな私を見ては及川に集っていた女子たちがコソコソと話し始める。
いつの日か、彼女たちが及川のことを‛目の保養’だと言っているのを聞いたことがある。
目の保養？少し話せただけで十分？その時は思わず笑いが漏れたのを覚えている。
そんなことだから、いつまで経っても私のことを悪く言うことでしか自分らの欲求を満たせない。
寧ろそこまで私の話をされると好意とすら感じる。褒め言葉だよ褒め言葉。
「あ、岩ちゃん！」
及川がたまたま通りかかった岩泉に声を掛ける。
「岩ちゃんもお昼一緒に食べようよ」
近づく足音に振り返ると岩泉が私の背後に立っていて、その周りにいた及川のファンらしい女子が数名がこちらを見ていた。
「嫌だ。お前と飯食うと余計な女がついてくるからな」
岩泉はそう言っては鋭い目つきで私を見下ろした。
自分のことを言われていると自覚した上で、いい気がするわけがない。
「なそれ、私のこ、」
「嫉妬は見苦しいぞ岩ちゃん！でも泣いて請うならAの作ったお弁当を分けてやらなくもない！」
私の言葉を遮った及川が挑発するかのような御託を並べると、岩泉がわかりやすく眉間にしわを寄せた。
「ダメだって！これは及川に作ったの！」
私はそう言ってランチバッグを胸に抱えて、体ごと岩泉に向き直って対抗するように睨み上げる。
「食うつもりねえから、そんな顔すんな」
そんな私に、岩泉が呆れたように息を吐く。
「ほら、岩ちゃんが睨みつけるからAが怖がってるじゃん」
そう言って後ろから私の両肩に手を置いた及川に、足が一歩後ろに下がる。
やっぱり、勝てる気がしない。
及川の楽しそうな声色を聞いて、改めて思う。
「もう行こう、及川」
私は自分の肩に乗った及川の手を掴む。
「あーうん、そうだね。ほら岩ちゃんも行くよ」
「あ、ちょ、おい。クソ及川！離せ！」
―――私が岩泉を邪険にできない理由は、彼が、及川の一番の存在だからだ。
岩泉にだけは、勝てない。絶対に。
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いおり - 道徳の教科書に載ればいいのにぃ!!泣くことしか出来ませんが…凄く素敵な作品で本当に号泣しました!!１日で全部読ませて頂きましたがここまで素晴らしい小説は今までで一番だと思います!! (2020年12月9日 15時) (
レス) id: 5e524467c0 (このIDを非表示/違反報告)
雅 - 本編は全て夢主目線なのに他の登場人物の感情も伝わってきて、切なくなりました。作者様の描写が繊細だからこそ、読み手にしっかり伝わるのだと思います。番外編でまた深く心情が知れて切なくなりました。特にマッキーがかなりグッときました。すごく素敵な作品でした！ (2020年6月22日 9時) (レス) id: 2f4dc25fc0 (このIDを非表示/違反報告)
おかか - めっちゃ面白かったです！一人一人の言動の真意とかしっかり話が作られていて、リアルで凄いです！ (2020年6月21日 9時) (レス) id: 0ecde9d0b0 (このIDを非表示/違反報告)
ルーテル(プロフ) - 今まで読んだ占ツク作品で1番好きかもしれません…1人1人の心情がリアルでぐちゃぐちゃなのに真っ直ぐな恋心がとても心地いい作品でした！マッキーの切なさが一番心に来ました…いい作品をありがとうございました！ (2020年5月31日 22時) (レス) id: 98b39f25a9 (このIDを非表示/違反報告)
モンブラン♪@アップルパイも捨てがたい(プロフ) - 泣いた...岩泉夢主さん好きなのかなぁ？は勘違いか...もうカッコよすぎ...ごちそうさまですっ (2020年1月13日 12時) (レス) id: 538cc2e76e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：小鈴
| 作成日時：2019年10月17日 21時
