鬼事 ページ40
私と及川の関係は相変わらずで、それから何もないまま数日が経った。
この日は、岩泉に言われた通りバレー部の練習終了時間を見計らって、体育館へと足を運んだ。
体育館のドアを開けると、そこにいたバレー部全員の視線が刺さった。
私が及川を見つけた瞬間、ばっちりと目が合う。
「なっ!?」
ここにいるはずのない私の姿に、及川が脳天に一撃喰らったかのような、大袈裟と言っていいほどの驚き方をした。
私が一歩、体育館に足を踏み入れると、逃げようとする及川の隣にいた岩泉が、その腕をしっかり掴んで逃亡を許さなかった。
岩泉の筋書きはこうだ。いや筋書きと言っていいのだろうか。それはたった二言。
‟×日は部活が早めに切り上がるから終わりの時間を狙って体育館に来い。俺が何とかしてやる”と、たったそれだけ。
「き、金田一!その子止めて!」
「は、はい!」
体育館の入口付近、即ち私の一番近くにいた背の高い米粒?いやラッキョウのシルエットをした部員に及川が叫ぶと、彼はずんずんと近づいてきて、私の進行を妨げるように立ちはだかった。
「…君、なに」
私が目を細めて見上げると‛金田一’は「あ、いや、及川さんが…」と少し口籠りながら言葉を繋ぐ。
そういえば及川の後輩だっけ。中学でも見たことある気がする。
金田一の後ろから「おいクソ及川!逃げるんじゃねえ!」という岩泉の声と、複数の足音と騒がしい話し声が聞こえる。
及川に逃げられる…!そう思って私が咄嗟にとった行動は――猫騙し。我ながら古典的な手法。
金田一の顔の目の前で音を立てて手を強く叩くと、彼は面白いくらいにまんまと嵌ってくれて、意表を突いた隙を狙って、私は体育館へと侵入した。
私の侵入を許した金田一の慌てふためく声が背後から聞こえたが、私は足を止めなかった。
でもそこには及川の姿はもうなくて。
「部室だ!」
岩泉の叫んだ声と予想外の展開に、私は一瞬たじろぐも「負けんな」と岩泉にその背中を強く押され、開け放たれた外へのドアを跨いで体育館を飛び出した。
「ありがとう岩泉!」
振り返りながら叫ぶと、普段の彼からは想像できないほどの穏やかな表情をした岩泉が「いいから走れ!」と言葉を返した。
日の落ちた薄暗い外に出ると花巻がいて「こっちだ!」と私を部室へと走らせる。
私のことをあんなに嫌悪していた岩泉が唯一与えたチャンス。
今を逃したら、もうない気がする。
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いおり - 道徳の教科書に載ればいいのにぃ!!泣くことしか出来ませんが…凄く素敵な作品で本当に号泣しました!!1日で全部読ませて頂きましたがここまで素晴らしい小説は今までで一番だと思います!! (2020年12月9日 15時) (レス) id: 5e524467c0 (このIDを非表示/違反報告)
雅 - 本編は全て夢主目線なのに他の登場人物の感情も伝わってきて、切なくなりました。作者様の描写が繊細だからこそ、読み手にしっかり伝わるのだと思います。番外編でまた深く心情が知れて切なくなりました。特にマッキーがかなりグッときました。すごく素敵な作品でした! (2020年6月22日 9時) (レス) id: 2f4dc25fc0 (このIDを非表示/違反報告)
おかか - めっちゃ面白かったです!一人一人の言動の真意とかしっかり話が作られていて、リアルで凄いです! (2020年6月21日 9時) (レス) id: 0ecde9d0b0 (このIDを非表示/違反報告)
ルーテル(プロフ) - 今まで読んだ占ツク作品で1番好きかもしれません…1人1人の心情がリアルでぐちゃぐちゃなのに真っ直ぐな恋心がとても心地いい作品でした!マッキーの切なさが一番心に来ました…いい作品をありがとうございました! (2020年5月31日 22時) (レス) id: 98b39f25a9 (このIDを非表示/違反報告)
モンブラン♪@アップルパイも捨てがたい(プロフ) - 泣いた...岩泉夢主さん好きなのかなぁ?は勘違いか...もうカッコよすぎ...ごちそうさまですっ (2020年1月13日 12時) (レス) id: 538cc2e76e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小鈴 | 作成日時:2019年10月17日 21時