救いの助け舟 ページ31
「痛ッ、離せよ！」
女も私の両肩に掴みかかってきて、取っ組み合いになる。
他の二人がそのヒートアップした光景に、あわあわと私から女を引き離そうとする。
「及川はっ！そんな人じゃない！」
「アンタ随分必死だけど。そんなに及川くんが好き？」
「好きだけど！？悪い！？」
「はっ、ほら説得力ないっつの」
女の方が私より背が高く、上から肩を押され足元がふらつく。
「騙されてるんじゃないの？」
「騙されてると思うなら、及川に近づかないでよ！」
切羽詰まって、心が折れそうで。でも引き下がりたくなくて。
今まで、こういう似たようなことが起きたときは決まって及川が私を助けてくれた。
だから、今度は私がそうなれるようにと、そう思ったときだった。
「おい！」
声とともに視界がぐらついた。
一瞬にして強い力で私と女を引き離したのは―――
「松川」
女が私に掴まれて窮屈になった襟元を直しながらその名前を呼ぶ。
揺れた視界に顔を上げると、松川が私の左腕を掴んでいた。
肩で息をした松川が走ってきた音にすら気づかないくらいに、私は必死だった。
「なにしてんだよお前ら」
静かな、でも焦りを感じる圧のある声。
(なんで、松川が)
松川の登場に焦り危機を感じたのか、他の二人に連れられた女は足早に去っていった。
捨て台詞も何もなく、あっさりと去っていくものだから、すっきりせず心に靄がかかって感情的なしこりだけが残る。
「お前、あっち騒ぎになってる。なにしてんだ」
松川がそう言って三年の教室の方向を指す。
視線を床に落とすと、松川は威圧的な視線を私に向けた。
「なにも」
「あれで何もないわけないだろ」
「…」
「…」
「…及川のこと、悪く言ってたから。我慢できなかった」
松川の無言の圧力に観念したように口を開くと、「泣くな」と小さい声が聞こえた。
その言葉に、私は自分の頬に涙が伝っていることを知った。
松川が来てくれたことからの安堵だろうか。いや、悔しさからだろうか。目から疲労が滲み出るように、涙が溢れていた。
私は松川に背を向け、慌てて涙を拭う。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 684人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
いおり - 道徳の教科書に載ればいいのにぃ!!泣くことしか出来ませんが…凄く素敵な作品で本当に号泣しました!!１日で全部読ませて頂きましたがここまで素晴らしい小説は今までで一番だと思います!! (2020年12月9日 15時) (
レス) id: 5e524467c0 (このIDを非表示/違反報告)
雅 - 本編は全て夢主目線なのに他の登場人物の感情も伝わってきて、切なくなりました。作者様の描写が繊細だからこそ、読み手にしっかり伝わるのだと思います。番外編でまた深く心情が知れて切なくなりました。特にマッキーがかなりグッときました。すごく素敵な作品でした！ (2020年6月22日 9時) (レス) id: 2f4dc25fc0 (このIDを非表示/違反報告)
おかか - めっちゃ面白かったです！一人一人の言動の真意とかしっかり話が作られていて、リアルで凄いです！ (2020年6月21日 9時) (レス) id: 0ecde9d0b0 (このIDを非表示/違反報告)
ルーテル(プロフ) - 今まで読んだ占ツク作品で1番好きかもしれません…1人1人の心情がリアルでぐちゃぐちゃなのに真っ直ぐな恋心がとても心地いい作品でした！マッキーの切なさが一番心に来ました…いい作品をありがとうございました！ (2020年5月31日 22時) (レス) id: 98b39f25a9 (このIDを非表示/違反報告)
モンブラン♪@アップルパイも捨てがたい(プロフ) - 泣いた...岩泉夢主さん好きなのかなぁ？は勘違いか...もうカッコよすぎ...ごちそうさまですっ (2020年1月13日 12時) (レス) id: 538cc2e76e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小鈴
| 作成日時：2019年10月17日 21時
