冷酷と安堵 ページ44
.
その男が、クロだってすぐに気づいた。
「…クロ」
私が目を丸くして呼ぶと、クロがぱっと先輩の手を離して私に駆け寄った。
「なにがあった。大丈夫か、何もされてねえか」
何でクロが、と思ったがヘトヘトになりながら後方から現れた孤爪に、彼が呼んでくれたのかとすぐに察した。
「私は何も…」
そう言ってマミを見ると、彼女は頬を押さえながら笑って「大丈夫」と数回繰り返した。
クロは私の頭をひと撫ですると、先輩に向き直って静かに口を開いた。
「お前、何したかわかってんの？」
先輩の目には、怒りが消え怯えに似た色があった。
「文句があんなら俺に言えよ。コイツに言うのは筋が通ってねえだろ」
静かに、でも怒りを込めて。
淡々と言い放つクロに、私は悪寒を感じた。
普段の飄々とした態度のクロとは思えないような、冷たい感じ。
こくこくと、言葉を発することなく何度も頷いた先輩は、早足にこの場を後にした。
「マミ」
私は、先輩が立ち去ったと同時にマミに駆け寄った。
「マミ、ごめっ、私のせいで、」
マミの赤く腫れあがった頬を見ては、こみ上げてきた涙を堪えることができなかった。
その平手打ちは、私がされるものだった。
クロが来てくれた安心感と、自分の行動の情けなさとが相まって、何かが崩壊したように。
「気、張ってくれてたんだよね」
そう言ったマミは、私の頭を自分の胸に抱き寄せた。
「私が、私が、」
ひっく、としゃくり上げて涙を拭う私に、マミが「ありがとうね」と言った。
お礼を言うのは私の方なのに。
「いや、悪いのは俺だ」
その言葉にマミから体を離すと、クロが申し訳なさそうに頭を下げていた。
「俺がコイツに言うよう促した。まさか、こんなことになるなんて思ってもなかった。研磨が来てくれなかったら、知りもしなかったわけで」
そう言って孤爪をチラリと見やる。
「本当ですよ」
マミがジリ、とクロに近づく。
「しっかりしてください。彼氏ならちゃんとAのこと守ってください。じゃないと」
―――私が貰っちゃいます。
マミの何かを含めたその言葉に、何かを察したのかクロが私を自身の背に隠した。
「冗談ですって」
マミのその言葉が、秋風に乗っては消えていった。
「守ってくれて、ありがとうな」
クロのその言葉が、マミに届いたのかは、わからない。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1241人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
クロいいよね - 完結おめでとうございます とっても面白かったです！！ (2022年11月21日 22時) (
レス) @page50 id: 18092cdeea (このIDを非表示/違反報告)
ちあ。(プロフ) - コメント失礼致します。完結おめでとうございます！毎日更新楽しみにしていました。私自身、自分は流されないように頑なになりすぎていたんだな、と作品を読みながら思いました。周りに合わせることも流されないことも、両方器用にできるようになりたいって思いました！ (2019年10月14日 1時) (レス) id: 2013350887 (このIDを非表示/違反報告)
momx(プロフ) - 完結おめでとうございます！とても面白かったです。 (2019年10月13日 17時) (レス) id: 2de1bab8eb (このIDを非表示/違反報告)
ずー(プロフ) - 完結おめでとうございます！素敵だなと思う作品は小鈴さんの作品がほとんどで…。とても楽しまさせて頂きました。 (2019年10月13日 11時) (レス) id: 5f1f2e19c0 (このIDを非表示/違反報告)
usagicyanda(プロフ) - 完結おめでとうございます！丁度一年ほど前に私もこの主人公と全く同じ１つ上の人気者の先輩と付き合っていました、ほんとに全く同じ状況で涙がこぼれました..その先輩は晒すだけ晒して守ってくれませんでしたが... けど主人公ちゃんとクロが幸せになれてよかったです！ (2019年10月13日 3時) (レス) id: cef44ace1d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小鈴
| 作成日時：2019年9月29日 17時
