紺と黄と白と。 ページ44
.
「なんていうか、少し、引きますね」
「赤葦！そんなこと言わないで！これもひとつの愛のカタチなんだってば！」
―――遡ること、数分前。
この日、俺はAさんの引っ越しの荷解きを手伝っていた。
俺の住むところからは少し遠いAさんの新しいマンション。
「Aさん、これ開けていいですか」
沢山ある段ボールの一つに手を掛けて聞くと、彼女はこちらを見ることなく「いいよー」と返事をする。
適当と言うか、なんというか。
俺は段ボールを丁寧に開けて中身を取り出していく。
この小物、Aさん好きそう。
カエルのガラスの置物をそっと床に置く。
(…ん？)
俺はあるものを手に取り、目を細める。
(これ…)
それは、よく見覚えのあるものだった。
綺麗に、大切そうに梱包された【それ】は、よく見覚えのあるものだった。
「赤葦〜、そっちの箱に―――」
Aさんが俺の手に持つ【それ】を見るなり、慌てて取り上げる。
どちらとも、視線はそらさない。
「それ―――」
「いや違う！そ、そういうんじゃなくて！そういうんじゃないってわけでもないんだけど、その…えと、これは…ですね。あの、勿体ない、じゃなくて。今のは言葉の綾で…あ、洗ってないとかじゃないよ？別に赤葦の匂いがするからとか、意識してとかではなく、ですね」
俺の言葉を遮って、慌てたように早口で言葉を並べる彼女の手に持つ【それ】を見ては目を細める。
「焦りすぎです」
「え、や、こんなの彼氏に見られて焦らないほうがおかしいよ！」
今更になり、慌てて【それ】を背に隠す彼女。
「ていうか、洗ってないって」
焦るあまり余計なことを言った彼女の言葉を、俺は聞き逃さなかった。
「なんていうか、少し、引きますね」
「赤葦！そんなこと言わないで！これもひとつの愛のカタチなんだってば！」
少し、驚いたのと同時に心が弾んだ俺も、きっとおかしいんだと思う。
「ねえ赤葦〜。私が悪かったって。ちゃんと洗うから」
「そういう問題じゃないです」
それは、あの時から俺のことを意識してくれていたって。そういうことでいいんですよね。
「別に、寂しくなったときに匂い嗅いでいるとかそういうんじゃ」
「…」
「怖い！赤葦怖い！ごめんなさい！本当にごめんなさい！洗います！」
紺色の生地に黄色のチェック模様のハンカチには、掠れた白色。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 369人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
凛々 - 赤葦と夢主の掛け合いが素敵…。甘さが私に合いすぎです！続きが気になって仕方ないです。 (2019年11月8日 20時) (
レス) id: df09ac0ca3 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 39話以降のタイトルのセンス良すぎでは…。全話タイトルつけてほしいくらいです。。。 (2019年9月23日 18時) (レス) id: c3e4fd17c8 (このIDを非表示/違反報告)
madoka - コメント失礼します。小鈴さんの作品は「これぞ純愛！」って感じがして、穢れが一切ない感じがたまらなく好きです！今回もいい感じのキュンキュンありがとうございます！番外編と続編も楽しみにしています！これからも頑張ってください！ (2019年9月20日 13時) (レス) id: b7f00b86d0 (このIDを非表示/違反報告)
ずー(プロフ) - あまーい！！実は木兎さんが主人公に片思いをしていたこともめっちゃ胸キュンでした！！本当に小鈴さんの作品大好きです！！！！！ (2019年9月19日 13時) (レス) id: 1ffe4440e9 (このIDを非表示/違反報告)
すいか(プロフ) - めっちゃキュンってくるのと、赤葦のかっこよさが、いつもより増してまじでよかったです！他の作品も読んでみようと思います (2019年9月18日 20時) (レス) id: 2af2bdbcf5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小鈴
| 作成日時：2019年9月7日 19時
