夏化粧 ページ17
.
夏休み。
夏合宿や練習試合が休む間も組まれる一か月間に、貴重な完全オフの日。
俺は、日が落ちて混雑している駅前でスマホの画面を見て、眉間にしわを寄せいていた。
木兎光太郎赤葦ごめん。今日行けなくなっちまった…
赤葦遅いです
赤葦俺もう駅前なんですが
木兎光太郎でも大丈夫!
木兎光太郎Aも来るはずだから宜しくな!
「嘘だろ」
スマホの下部から浮き上がった名前に、俺は呟く。
鼓動が早くなっていく気がする。
ていうか、そんなの聞いていない。
俺はてっきりむさ苦しい男二人で花火を見るんだとばかり───
「赤葦！」
遠くから俺の名前を叫んで誰かが走ってくる。
紺色に花柄の浴衣を着た、綺麗な女の人。
その人は、小走りで俺のところに来るなり息を切らしながら「遅くなってごめん赤葦」と笑った。
紺色の浴衣によって白い肌が、より一層際立つ。
纏められた髪は、普段見る彼女とは違う雰囲気を醸し出している。
いつも見る彼女と少し違うように見えるのは、きっと化粧のせいだ。
「な、なに赤葦。私、なんか変…かな」
頬を両手で覆う彼女に、俺はハッとして視線を逸らす。
「いえ。綺麗ですよ」
俺のその言葉に、いつもなら照れ隠しの一つや二つ言ってくる彼女は、何も言葉を発しない。
逸らした視線を彼女へと戻すと、化粧のせいで普段の割増しで顔を赤らめる彼女が、口をパクパクさせていた。
「そ、そういうこと、さらっと言わないでよ」
なんだ…？
いつものAさんじゃないみたいだ。
「赤葦も、浴衣なんだね」
足から頭の先まで見上げ「ふふ」と笑った彼女に、
「木兎さんに言われて」
と、背を向けた。
俺はもともと着る気なんてなかったのに、木兎さんが子供のように駄々をこねて「着て来い！」と半ば強制したから。
「似合ってるよ？赤葦」
背を向けた俺の顔を覗いたAさんは、ふわりと笑った。
さらっとそういうことを言うのはどっちだ。
「そういえば。木兎さん、来れないみたいですね」
「あ、あー。うん、そうみたいだね」
俺はそもそもAさんが来ることを知らなかったけど、彼女は知っていたのだろうか。
口振りから、知っていたように聞こえたけど。
疎外感と不信感を抱きつつ、「行こう赤葦」と俺の手を引くAさんと人混みに溶け込んだ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 369人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
凛々 - 赤葦と夢主の掛け合いが素敵…。甘さが私に合いすぎです！続きが気になって仕方ないです。 (2019年11月8日 20時) (
レス) id: df09ac0ca3 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 39話以降のタイトルのセンス良すぎでは…。全話タイトルつけてほしいくらいです。。。 (2019年9月23日 18時) (レス) id: c3e4fd17c8 (このIDを非表示/違反報告)
madoka - コメント失礼します。小鈴さんの作品は「これぞ純愛！」って感じがして、穢れが一切ない感じがたまらなく好きです！今回もいい感じのキュンキュンありがとうございます！番外編と続編も楽しみにしています！これからも頑張ってください！ (2019年9月20日 13時) (レス) id: b7f00b86d0 (このIDを非表示/違反報告)
ずー(プロフ) - あまーい！！実は木兎さんが主人公に片思いをしていたこともめっちゃ胸キュンでした！！本当に小鈴さんの作品大好きです！！！！！ (2019年9月19日 13時) (レス) id: 1ffe4440e9 (このIDを非表示/違反報告)
すいか(プロフ) - めっちゃキュンってくるのと、赤葦のかっこよさが、いつもより増してまじでよかったです！他の作品も読んでみようと思います (2019年9月18日 20時) (レス) id: 2af2bdbcf5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小鈴
| 作成日時：2019年9月7日 19時
