繋いだボール ページ38
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それでも、力のある方が強いと主張するかのようなセットアップからの大エースのスパイクは、物凄い速さで床に叩きつけられる。
再度、白鳥沢のマッチポイント。
その時、烏野のメガネの人が指に包帯を巻いて戻ってきた。
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「ワンタッチ!」
あぁ、やだ。
あのメガネの人が来てから、スパイクがブロックに引っかかる回数が目に見えて多くなった。
(もう、足が)
───五色くん…!
必死な彼に、私の笑顔は崩れそう。
急に、頭が回らなくなって、混乱して。
烏野が色々同時に動いているのもなにがなんだかわからないくらいに、酸素が薄くなったように呼吸が苦しくて。
ボールを目で追うだけで精一杯で。
気づいたら、烏野の坊主の人のスパイクが決まっていた。
烏野のマッチポイント。
(五色くん…!)
白鳥沢が最後のタイムアウトを使い切る。
(勝って…!)
私は思わず自分のチアの配置を外れて観客席最前列に出た。
「A!」
後ろから呼ぶ先輩の声なんて、聞こえない。
だって私は、五色くんを、応援しに来たんだ。
触れた柵が、ひんやり冷たい。
互いに強力なサーブを打つもミスしてしまう。
両者、守りに入る気配はない。
攻撃は、最大の防御。
牛島さんのスパイク、烏野の10番の速い攻撃も、天童さんのブロックも。
交互に、確実に決まるのに。
「ナァーイスキィ五色!」
《ダンダン》
『五色!』
ファイナルセットは15点先取。苦しい試合展開の中でデュースが続き、烏野が20点台に乗る。
みんな、足が限界だ。
私にもわかるくらいに。
それでも、跳ぶのは───
───たった一枚の全国行きの切符を掛けて。
全員が、コートにいる全員が繋いだボールが、落ちたのは───
《ピピーッ》
セットカウント
白鳥沢 烏野 2−3
勝者:烏野高校
《あああぁぁ!?》
どわっと沸き上がる歓声。
───予想、してない。
「うそー!」
「マジかよー!」
「う、そ」
私は膝から崩れ落ちた。
悔しい。
鼻の先がツンとなって、目から涙が止まらなかった。
【強者であれ】
その横断幕を背に、去っていく牛島さんが歪んで見えた。
五色くんが、先輩に肩を抱かれ俯いている。
それを見て、私の顔はもうぐちゃぐちゃだ。
誰もが、王者白鳥沢が勝つと思っていた。
信じていた。
【白鳥沢学園 春高宮城代表決定戦 決勝敗退】
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あまね(プロフ) - 3年ぶりも大好きです (2月18日 3時) (レス) @page42 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
hwanieee - 私が好きな自信満々ででもまだ完璧じゃなくて繊細な五色くんがいて感動しました! (2月12日 10時) (レス) id: 307954f471 (このIDを非表示/違反報告)
あまね(プロフ) - 待ってなんでこの神作に早く出会わなかったの?私バカなの?((((喧しいわ (2021年8月14日 20時) (レス) id: 1a6dd63888 (このIDを非表示/違反報告)
和敬 - 出会って1年と経ちますが、今でもこの小説だけは何十と読み直してる位 大好きです。甘酸っぱくて、だけどちょっと、もどかしさもあって 。本当に素敵な作品をありがとうございました! (2020年11月9日 0時) (レス) id: a0a88ff10f (このIDを非表示/違反報告)
てつこ - 最高の夢をありがとうございます (2020年1月28日 1時) (レス) id: d5585a65a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小鈴 | 作成日時:2019年8月25日 22時