次期エース ページ25
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私は昨日の体育館に走った。
近づくにつれて、自分の鼓動とボールの音が大きくなる。
コツ、ローファーが音を鳴らす。
体育館を覗くと、力強く放たれるサーブと、荒い呼吸。
それから―――
「くそッ!」
苦しそうな、掠れた低い声。
私は肩に掛けた鞄を握って、体育館のドアに触れた。
「…五色、くん」
膝に手をついて肩で息をする彼を呼ぶと、勢いよく顔を上げて私の姿を認めるなり驚いた表情をした。
まさか、昨日の今日で来るなんて思っていなかったのだろう。
「A、どうしたんだよ」
Tシャツで汗を拭って私のほうに歩いてくる五色くんに、私もローファーを脱いで体育館に入った。
床のひんやりした感覚が、靴下越しに伝わる。
「あ、のね。五色くんに言いたいことがあって」
久しぶりに、ちゃんと目を合わせた気がした。
「昨日は、ごめんなさい。私、無神経だった」
「なっ!?」
勢いよく頭を下げると、五色くんが慌てたように足をバタつかせる。
ちゃんと、言えた。
「なんでAが謝るんだ!?どう考えても悪いのは俺だ!」
顔を上げると、なにか思い詰まった表情をする五色くん。
「ううん、私が何も知らないのに。余計なこと言った」
五色くんが足元に転がるボールを拾い上げる。
おもむろにフワッと投げられたボールに、私は指で捕らえた。
どんくさい私なのに、良くキャッチできた。
五色くんが「ナイスキャッチ」と笑った。
「前、
白鳥沢の大エース。牛島さん。
五色くんが教室で窓際で、外を歩く牛島さんを指して私に教えてくれた。
悔しそうに、でもどこか自慢気に。
憧れで、ライバルであるかのように。
「俺は、あの人を越えて白鳥沢のエースになるんだ」
今更ながら、【エース】っていうのは彼の口癖だ。
【エース】が、目標なんだ。
「いつまでも “次期エース” じゃいられない」
私は手元にあるボールに視線を落とす。
このボールが、自分のコートに落ちたら、終わるんだ。
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あまね(プロフ) - 3年ぶりも大好きです (2月18日 3時) (レス) @page42 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
hwanieee - 私が好きな自信満々ででもまだ完璧じゃなくて繊細な五色くんがいて感動しました! (2月12日 10時) (レス) id: 307954f471 (このIDを非表示/違反報告)
あまね(プロフ) - 待ってなんでこの神作に早く出会わなかったの?私バカなの?((((喧しいわ (2021年8月14日 20時) (レス) id: 1a6dd63888 (このIDを非表示/違反報告)
和敬 - 出会って1年と経ちますが、今でもこの小説だけは何十と読み直してる位 大好きです。甘酸っぱくて、だけどちょっと、もどかしさもあって 。本当に素敵な作品をありがとうございました! (2020年11月9日 0時) (レス) id: a0a88ff10f (このIDを非表示/違反報告)
てつこ - 最高の夢をありがとうございます (2020年1月28日 1時) (レス) id: d5585a65a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小鈴 | 作成日時:2019年8月25日 22時