ほつれたリボン ４−➉ ページ49
「何してたんだい」
「それはこっちの台詞さ」
「俺は図書室に行こうかと」
「とうとう気がふれたか？」
シャルルは頬を緩めて笑い、彼の膝の上にあったおどろおどろしい表紙に触れた。指先がひりつくように麻痺し、赤みがさす。セオドールが真顔で手を払おうとするも、シャルルは懐の杖を片手で握り、覗き込むように本を開いて齎させる幾重もの闇の力を押さえ込んだ。傍らからの重い溜息が耳にかかる。
その本は死という概念について偏向的に纏められたものだった。ぱらぱらと流し読む限り、先に進むにつれて魔法という微細な神秘の尊さといった内容にシフトし、やがて精神論を基に純血の素晴らしさを謳い上げている。
「セオってこんなつまらないものを読む人だったっけ」
「読めると思うか？」
「いや、表紙止まりだろうね」
どうにかして読もうと試行錯誤していたところだったに違いない。先程のセオドールの真似をして首を傾けるように彼を見ると、あからさまに嫌な顔をされた。唾でも吐かれそうだ。
シャルルはまた緩みきった笑い声を漏らし、闇の魔術に侵された自分の指先を口に含んで舐めた。セオドールは「火傷のつもりか」と呆れ半分に嘲ったくせに、シャルルの手首を掴んで口の外に引き摺り出してエピスキーを唱えた。効果は薄い。
シャルルが小馬鹿にするように肩をすくめれば、セオドールは彼の膝に倒していたシャルルの身体を足蹴にしてソファの端に追いやって、シャルルがやんわり抵抗してもぞもぞしてうちに、自分の手にスコージファイを唱えた。
シャルルは「俺って汚い？」と尋ねる。泡と水が指を取り巻き、やがて消えた。セオドールは「唾液がついた」と答えたので、シャルルは素直に謝ったが、治療行為は頼んだわけでもないので少し不服だ。
シャルルの気持ちなんて考慮しないセオドールが鼻を鳴らして呪文を唱えたら、隣から書物がいくつも飛来した。厚い本は鈍器である。シャルルはそれらをひとつ残らず浮遊魔法の餌食にして、二人の間に積み上げた。舌打ちは無視した。
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作者名：砂な | 作成日時：2023年3月25日 23時
