ほつれたリボン ４−�� ページ47
猛攻だった。同士討ちを厭わずに攻め立てられる。
シャルルの背後にあった食器棚が弾け、硝子の破片が飛び散った。すかさず上級生がシャルルのみを除外したドーナツ型の護りを構成する。しかし下級生は突然のことに意識を散らした。
すぐ我に返ったが、シャルルは一瞬の隙を突いてロコモーター・モルティスを叫んだ。間を置かず四方に向かってインカーセラスを唱える。後方の半数が硬直し、ややあって倒れた。前列は全員が縛り上げられている。
シャルルはそこで再びプロテゴを纏ったが、飛んできた呪いは片手で数えれる程度のみだった。そのまま残りの数人を気絶させる。そして地に伏した彼らのローブの端へ順々にインセンディオを小さくを唱えた。くゆるような白煙が立ち込め、シャルル以外の全員の顔色が悪くなる。
「降参かい？」
返事を待たずしてシャルルは杖を懐に収めた。手を出さなかった数名の賢明な野次馬がようやく息を吐き、ビンセントとグレゴリーは壁に背を預けて座り込む。
シャルルは独り、慇懃な仕草で重いローブの右側を払い、中の衣に手を入れて肩から中指までを包む薄い黒布を剥がした。陶器のように真白い肌に純黒で施された印が露わになる。楔のような髑髏の入墨。最前列の数人が眉を顰めた。本来、それは左手にあるべきものだ。
シャルルの右腕は呪いのカンバスだった。名前を呼んではいけない王様によって刻まれたそれは最低最悪の過去の象徴でありながら、シャルルを這う這う取り囲む彼らへの威嚇として成り立っている。
グレゴリーとビンセントの視線はシャルルの吊り上がった唇に移り、一歩後退った。輪を構成する一部の特に高貴なる上級生も額に汗を浮かべて杖をより強く握った。
アンリだ、とその場の誰もが思った。彼は“アンリ”なのだと。
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作者名：砂な | 作成日時：2023年3月25日 23時
