断頭台で待ち合わせ (ページ3)

今日:2 hit、昨日:4 hit、合計:2,371 hit

セカンドプロローグ　１－③ ページ3

それはそれとして。
　シャルルに人格の大きな変化が見られず、混乱の最中でも幼い頃から培ってきた貴族としてのポーカーフェイスを保つことが出来ているのは僥倖であった。なにぶん数時間後に寮決めなどの重要シーンを控えている。どれだけ胸中が荒れ狂っていようと、頭痛と貧血じみた吐き気に苦しんでいようと、行動の指針くらいは決めるべきだろう。
　とはいっても、思い出した瞬間に決めていたのでいまさら考えることはない。だから手始めにこうしてドラコの気を惹こうとしているのである。

「おい待て。下町上がりのイントネーションはやめろと言っただろう」
「だって“僕”なんて柄じゃないもの。君の前くらいはいいだろ、特別に」
「媚びた顔を僕に向けるな。気色の悪い」
「おっと、それはすまない。もとからこの顔でね」

　貴族は基本的に美しい容姿の者が多い。長年に渡って美しいとされる形質の遺伝子を取り入れるからだ。
　シャルルも例外ではなく、白磁の肌とアーモンド型の瞼に収まった満月の瞳を持つ美少年だ。肩口で切り揃えた絹のような緋い髪が黒のリボンでハーフアップに整えられているのが、月のない薄暮の空を背景とした車窓に鮮やかに反射している。
　幼少の頃からシャルルの容姿は誰も彼も釘付けにして迷惑だと繰り返していたドラコは、いつもみたいに「仮面でも着けてろ」と言うでもなく、ちょうど現れた車内販売に気を取られてその話はおしまいになった。落ち着きがない。どこぞの英雄様にお熱だからだろう。

セカンドプロローグ　１－④→←セカンドプロローグ　１－②