セカンドプロローグ １−�� ページ2
前触れはなかった。
サンソン家と親交を持つマルフォイ家の嫡男とは十年近くかけて“幼馴染”という肩書きを手に入れたがそれ以上の何かなんて認識していなかったし、天涯孤独の身で家を再興させたときも、蝋のような指先の描く墨を溶かしたような螺旋が左手首に象徴を刻んだときも、そういうものとして思っていた。まして、存在しないはずの自分への疑問など。
ところがシャルルの世界観は一変することとなる。数分前のことだ。いつものように贔屓の店のレモンケーキを切った途端、急激な目眩に襲われた。気を失わなかったのが奇跡のような激しい頭痛と吐き気を催し、それから五感全てが情報の羅列に置き換わって滝のような速度で一気に流れる。賢い脳は数分のフリーズを経てその濁流をきちんと理解したらしい。
児童書のタイトルが近年の偉人に数えられる少年と同名であるとか、十年来の友人が悪役的立ち位置にいるとか、自分どころかその起源たるサンソン家が魔法界と関わりがないはずであるとか、己の腕に消えない傷を遺した王様は実のところ生きているとか、嘘みたいなファンタジーに今度は比喩的な意味で目眩を覚えた。
ひどすぎる。あらゆる意味で非道だ。既存の作品はそれだけで完璧なのに、どうしてこんな冴えない魂を生み落としてしまったのだろう。
記憶の限りでは作中にサンソン家が登場していないため、本来の世界ではサンソン家がマグルである可能性も存在する。となると、正確には“原作次元から分岐した魔法使いのサンソン家が存在する派生世界に、原作の上位次元で一生を終えた記憶を持つ魂がサンソン家で生み落とされた”と言った方がよいかもしれない。ややこしい。
どちらにせよ、一読者は原作者の頭の中まで知ることはかなわないので、どちらの考察もその精度はまったくもって怪しいところなのだが。
何もかもが不明瞭。
そのため、この世界にとってシャルルに混じった前世らしき存在が異物か否かについては現段階ではなかなかに判断の難しいところだ。この記憶の発露が偶然か必然か、必然だとしてそこに何者かの作為はあるのか、再現性の有無はどうか。疑問は絶えない。前世を生きた世界には別段戻りたくはないが、次元渡航関連については調べておいて損はないだろう。
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作者名：砂な | 作成日時：2023年3月25日 23時
