第一章 その3 ページ6
「それどころかあの王子様…『パンがなければおやつを食えば良い』…などと仰ったのです。」
「まあディオ様おやつ大好きですから…」
「エマ、そういう問題じゃないだろう…つまり、王子はモノの価値がわかっちゃいないってことだ。」
呆れて私に意見するシーザーに、リサリサ様は頷く。
「シーザーの言う通りです… 民衆の日々の食卓に並ぶ食事が自分の愛馬に与えられる餌よりも遥かに貧相だということを、あの方は知らない…自分の周りしか見えていないのよ、あの箱入り息子は…」
冷静沈着で自分の職務と民の為に粉骨砕身になって動くリサリサ様と、悪逆非道で世間知らず、民の生活など知らん振りで贅沢三昧なディオ様…
ほぼ正反対と言っていいほど犬猿の仲な2人がぶつかるのは、王宮の中ではよく見られた光景である。
「…ディオ様も13歳…今日で14歳になられるのね… 国政に関わるのはまだ幼いとはいえ民衆のことをもっと考えられるべきなのです…」
そう言ってリサリサ様は髪をかきあげる。
彼女の言いたいことはわかる。王子の目が民衆へ向けられていないのは事実だ。ならば、周りの近臣達がしっかり政務を行えばよいのだけれど…皆あの傲慢な王子様の言いなりである為、それができないのだろう。
「ところで…ディオ様は今お出かけ中なのかしら？」
また髪をかきあげてそう訊ねるリサリサ様に、私は首を傾げる。
「そんなはずないと思いますけど…シーザー、今日はディオ様の外出のご予定ってあったっけ？」
「いや、まさか誕生パーティーが行われる日に王宮を出るなんて…」
嫌な予感がした。リサリサ様は訝しげな顔で言う。
「おかしいわね…ここに来る前に馬小屋に寄ったのですが…ザ・ワールドはいませんでしたよ」
ザ・ワールドというのはディオ様の愛馬の名前だ。
「えぇ！？ま、まさか盗まれたとか！？」
「それはありえません。今日は警備も一段と厳しくなっています。そう簡単に王宮に侵入など…」
驚く私の問にバッサリ切り捨てるリサリサ様に対して、シーザーは訊ねる。
「…侵入者への警戒を強くしている分…脱走者に十分な注意を払えていない、ということはありませんか？」
「まさかそんな…」
その時、王宮内から叫び声が聞こえた。
この声は…もう1人のメイド、スージーQの声だ！
ディオ様のおやつの担当へ行ったはず…
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作者名：あんず | 作成日時：2019年12月8日 21時
