闇オークション職員の憂鬱

□　記録7 ページ8

そして、夕方。

今日は闇オークションは無かった。

昼のレストランとしての姿で、夜のオークション会場としての姿で、汚れが蓄積したレストランの清掃。

特に厨房は昼夜使うためか飛び散った油などで汚れきっていた。

厨房は三人の中ではサエウムだけの管轄だったが、今回ばかりは他二人も手伝った。

厨房の清掃担当はどうやら三人だけだった。

「うわぁ……こんなところで掃除なんてしたら、僕が汚れてしまうよ！」

「あなたの心は既に汚れきっていますから、安心して下さい」

「お前ら…ここで暴れんなよ？」

サエウムが少しピリピリする二人を宥める。

「……俺はそんなことしません、さて、俺は何をするんですか？」

「あー、じゃあ、換気扇の掃除頼んでもいいか？」

三ヵ所にある換気扇を左側から順に指差しながらサエウムが言った。

「分かりました」

「僕は何をするの？あまり汚れないやつがいいなー」

「あーはいはい、分かったよ…じゃ、調理器具を綺麗にしてくれや」

「んー、まあ、それならいいよ」

渋々といった感じだったが、それを引き受けるアルマ。

「ゴホッ……何ですかこれ、埃まみれじゃないですか」

ピウスが、換気扇の蓋を外した衝撃で沢山顔に落ちてきた埃を払い、咳き込みながら言う。

「ああ、そこは全然掃除してなかったからな……」

「やっぱり、僕がやらなくてよかった」

「まあ、アルマさんは臆病ですからね」

「美しさを保つには、必要なことなんだよ」

いつも通りの会話な筈なのに、どこかピリピリしているような気がする、とサエウムは思った。

嫌な予感がしたのだ。

自分の身に直接降りかかってくるものではないが、何か悪いことが起こる気がする。

気のせいで済めばいいのだが。

「ちょっと、これ、外で埃払って来ますね」

そこまで考えたところで、ピウスに話し掛けられて我に返る。

「あ、ああ、分かったよ」





「ゲホッ……なかなか落ちない…」

腕が疲れたのか、一旦埃まみれの換気扇の蓋を置き、少し離れたところで煙草を吸おうとする。

しかし、寸でのところで踏み留まる。

禁煙していたことを思い出したのだ。

「はぁ……何だかなぁ…」

最近は良いことが本当にない。

沈んだ気分で暫しぼうっとしていると、不意に背後で気配を感じた。

ぬるっとしたような、微かな殺気。

それに反応し、振り向いた。

そこにいたのは＿＿＿アルマだった。


只し、ピウスの首筋に調理用のナイフを突き立てて。

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