狼 青 年 〜素顔を見せた彼〜

＊ ページ10

裕翔side



………明らかに、いつもと違う。



…いや、俺からすればいつも通りなんだけど………

ヤマはいつも、1歩教室に入れば、明るい陽キャの山田涼介へと変貌するのに。




久しぶりの学校で、それも極度の緊張状態のせいか。
そこに居たのは、俺たちや光さんたちといる時の、素のヤマの姿だった。






「サボったの怒られると思ってビビってんじゃね？山田！笑」

涼「え………ぁ……えと…」

「サボっといてビビるのはダサいよー！笑」

「あっ、こっち来いよ！こいつ壁に落書きしてさ！」

「え、あれ見せるの！？笑」




笑い声が溢れる、ヤマの周りのひとたち。

もちろんその笑顔に悪気はないし、明るくて素直な笑顔だ。



でも。
今は、ヤマに威圧を与える笑顔でしかない。



ここで俺が助ければ、余計にクラスメイトは疑念を抱く。

かといって、このまま見過ごすのも不安。



どうしよう、と戸惑っている間に……クラスメイトのひとりが、ヤマの腕をぐいっと引っ張った。



「ほら、こいって！」

涼「や……っ…！」







……………ポケットに突っ込まれていた、ヤマの右手。


力強く引かれたその腕は……ぐいっと無理矢理動かされ。







涼「ぁ…っ…………」






カランっという軽い音と共に…………パラパラと何かが弾けるような音が響いた。




床にばらまかれる、白い粒。


俺も、そしてヤマも、思わず体がフリーズする。





………やば………





「ねぇ、ラムネ落ちたんだけどー！！笑」

「おい木村強く引っ張りすぎだろ！」

「わりぃわりぃ！おら箒持ってきて！」

「……え、ねぇ、これラムネ？」

「…え…………え、なにこれ？笑」






………まずい…




正直、ヤマが薬を服用してることを知っても、ここのクラスメイトが引いたりはしないと思う。

そりゃ、驚きはするだろうけど。
特に深く気にすることなく笑い飛ばす姿が想像つく。



今だって、Honey Beeとヤマとの関係を知りたいはずなのに、何も言わないでくれるんだ。




………でも、ヤマは、それを分からないから。








涼「っ…！やめて！」







ああ………やっぱり…………







ヤマは、聞いたこともないくらい大きな声でそう叫んで。



床に落ちる薬を隠すように、急いで拾い集めた。








それでも、ヤマの手からボロボロと零れ落ちる薬。




同時にヤマは、涙を零しながら…………





涼「…見ないで………っ……」







そう、小さく言った。

＊→←＊

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す