ある並行世界にて ページ47
「あんたも暇つぶしか?病院生活はつまらんもんなぁ」
彼は柔らかい声で私に話しかけてくる。
その声は自然と私を落ち着かせた。
「暇つぶしじゃないよ。…私には記憶がないから。一度この世界を見たかったの。」
「事故でもあったん?」
「そうね。目を覚ましたら何が何だかよく分からなくて…」
「ふーん。それは大変やなぁ。あ、ちなみに俺も事故で入院しとるんで。車に引かれてな…足骨折したんよ。」
質問もしていないのに勝手に話し出す青年。まだ人とどう関わったらいいか分からない私は部屋に戻ろうと屋上の扉に向かう。
「なぁ、あんた…大丈夫か?」
心配そうな声色に足を止める。なぜ?と聞き返せば青年は「だってあんた泣きそうやで?」と。
逆光で顔が見えづらい私とは違い彼からは私の顔がばっちり見えていたらしい。そして私は自身の頰に流れる涙にやっと気づいた。
「あれ…何で…」
「記憶無くして不安なんやろ?…あ!良いこと思いついた!」
青年は私に近づいてくる。見え辛かった顔は至近距離にきてようやく見えた。
琥珀色の目をした男は「記憶をなくしたあんたの初めての友達に俺がなるってどうや?」と太陽のような笑顔を向けた。
私は無茶苦茶なことをいう男に「何それ…っ」と笑ってしまったのだった。
「お、笑うと可愛いやん!ずっとしかめっ面しとるよりそっちの方が全然ええで!」
「…失礼な人ね。」
「あ、また戻った!そうや良かったらあんたの名前、教えてや?」
「私、わたしは───A」
この世界に来て初めて出来た友人。彼がニコニコと笑うのを見てこの世界も悪いものではないな、と思ったのだった。
拝啓 別世界の私へ
人に愛され、愛するなんて考えたことはなかったけれどあなたの言った言葉の意味がやっと分かった気がする。人ってすごく暖かいんだね。
あなたはこの生活を平凡だって言ったけど、私にとってはすごいことだったよ。こんなに幸せなんだから。
だからあなたも、あなたの愛する人と幸せになってね。
敬具 並行世界の私より
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鳩山(プロフ) - えみさん» コメントありがとうございます。懸命に生きる2人と彼らの話を素敵と言っていただき本当に光栄です…!最後までご愛読ありがとうございました! (2021年2月20日 16時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
えみ - rbr推しですがshaちゃんとくっついて欲しいと思ってしまう程の作者様の文才に引き込まれました…!とても素敵な話でした! (2021年2月19日 17時) (レス) id: 1597543406 (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - ブンブンさん» ブンブンさん!以前もコメントして下さいましたよね?本当ありがとうございます…!良かったら番外編でもよろしくお願いします…!最高に嬉しい言葉を本当にありがとうございました! (2019年11月11日 0時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
ブンブン(プロフ) - 完結おめでとうございます!貴方の作品に出会えて本当に良かったです! (2019年11月10日 23時) (レス) id: 4a511d68cf (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - kogarashi343gooさん» コメントありがとうございます!本当に嬉しいお言葉ばかりで私からも感謝させてください!すごく励みになります…!今後は番外編然り、別作品然り、更新頑張っていくつもりですので今後ともよろしくお願い致します! (2019年11月10日 22時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
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