愛し、愛され ページ43
私は彼女に向けて小さい子に話すときのように優しく語りかける。
「あなたが哀れだからよ。生まれてから誰かに愛されたことないんでしょう?お母さん、お父さん…友達、好きな人…あなたには自分を愛してくれた人が一人でもいた?」
私は力を振り絞って立ち上がる。痛みに耐えて無理矢理笑顔を作ってグルッペンさん達を見た。
「力なんて関係なく、あなたを必要としてくれる人はいた?」
私の問いに彼女は視線を彷徨わせた。
「力が全ての世の中で…あなたこそ、私の、何が分かるの!」
血で濡れた私のシャツの胸ぐらを掴む彼女。私はその震える手にそっと手を重ねる。
「分かるよ。私だってあなただもん」
「何を言って…」
「あなたは誰からも愛されなかった私。私はきっと運が良かったんだ。周りの人に恵まれてたの」
私の言葉に反応するように風が吹き始めた。もう三度目だ。驚くことはない。しかし目の前の彼女は違う。自分を包み込むように吹き荒れる風、そして深い深い穴がゆっくりと自分を引きずり込む感覚に目を丸くさせて驚いている。
「ねえ、"A"。私の代わりに向こうの世界で…愛されてきて?」
その風は私でなく、彼女を包んでいたのだ。私達の繋がる手を放そうと風が吹き荒れる。
「!?」
「何も代わり映えしない平凡な毎日の中で、きっとあなたは幸せになれると思うの。私は…この世界が好きになっちゃった。弱くて、まだ役に立たないけど、我々のみんなが大好きだから行けない。」
「こんな、私でも愛されるの…?」
風によって身体の浮いた彼女が不安そうに尋ねる。満更でもなさそうな彼女に私は心の底から安堵した。
「もちろん。だってあなたは私だもの!私の愛した家族や友達によろしく…!」
私は笑って彼女の手をゆっくりと放す。
彼女は、眉を歪めて困ったように笑っていた。
「あなたも、どうか、幸せに」
最後に彼女がそう言った気がした。
穴が、消えていく。奥底が見えなかった穴が塞がる。不思議な光景であった。その光景を見つめているとふらりと身体が倒れる。しかし私が地面に叩きつけられることはなかった。
「よくやったな。」
「グルッペンさん…」
私の背を支えたのは総統。彼は私を抱えると瓦礫を軽々飛び越えて、トントンさん達のいる場所へと連れて行ってくれた。
「まさかお前が兄さんの笛を持ってるとは思わんかった」
コネシマさんが見覚えのある銀色のホイッスルを私に渡す。私の居場所が分かった理由はこれだったらしい。
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鳩山(プロフ) - えみさん» コメントありがとうございます。懸命に生きる2人と彼らの話を素敵と言っていただき本当に光栄です…!最後までご愛読ありがとうございました! (2021年2月20日 16時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
えみ - rbr推しですがshaちゃんとくっついて欲しいと思ってしまう程の作者様の文才に引き込まれました…!とても素敵な話でした! (2021年2月19日 17時) (レス) id: 1597543406 (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - ブンブンさん» ブンブンさん!以前もコメントして下さいましたよね?本当ありがとうございます…!良かったら番外編でもよろしくお願いします…!最高に嬉しい言葉を本当にありがとうございました! (2019年11月11日 0時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
ブンブン(プロフ) - 完結おめでとうございます!貴方の作品に出会えて本当に良かったです! (2019年11月10日 23時) (レス) id: 4a511d68cf (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - kogarashi343gooさん» コメントありがとうございます!本当に嬉しいお言葉ばかりで私からも感謝させてください!すごく励みになります…!今後は番外編然り、別作品然り、更新頑張っていくつもりですので今後ともよろしくお願い致します! (2019年11月10日 22時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
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