背中を押す ページ46
「ここは…？」
「ようやく目が覚めたんか？」
私は真っ白な世界の中、裸足で立っていた。目の前から声がして意識をそちらに向ける。
「あなたは、？」
紫のストールを巻いた妙歳の男がいた。どこか見覚えがあり、男とは初めて会った気がしない。私の問いかけに鼻で笑った男は煙草に火をつけ出す。随分とまあ、自由な人だ。紫煙が一本の糸のように上へ昇っていくのを目で追う。真っ白な世界で紫煙だけがただただ上へ昇っていった。
「ようこそ。死後の世界へ」
私が煙に夢中になっていれば男が口を開く。
「なら私は死んだんだ」
最期のことは記憶に残っている。シャオロンとみんなのために爆弾を持って逃げたのだ。爆死で違いない。特に取り乱すこともなく、納得する。
「意外に冷静なんやな」
「まぁ…。彼の死に比べると私の死なんて別に」
男は大して私に関心がないらしい。小さく相槌を打つと歩き始める。この男の後ろをついていくべきだと本能が告げていて、私は無言で彼の後ろをついていく。
どれだけ歩いただろう。男が振り返る。
「いつまでついてくるん？」
「居場所もすることもないし、ついて行ったっていいでしょ」
「変なやつやなぁ」
「ねえ、名前なんて言うの？」
「知らん奴に名前を教える義理なんてないわ」
「私はA。ほらこれで知らない人じゃないよ」
「アホか」
「結局教えてくれないんだ」
「………着いたで」
男が立ち止まったので私も並んで足を止める。
真っ白な世界で、初めてみた違う色。人一人の大きさ分の穴には水が溜まっている。水溜りにしては大きいし、湖というには小さい。
「なにこれ？」
「お前の記憶や」
「記憶…？」
「死んだら見るやろ？走馬灯ってやつ」
「なるほど」
私が水を覗き込むと、生まれた時から現在までの記憶が水の表面に映し出された。
「あははっ、軍のみんなの記憶ばっかりだ」
「そうやろな」
「貴方が私の何を知って…」
「そりゃあお前らのこと上から見てきたんやから知っとるわ」
彼はそう言って微笑む。
「シャオロンはお前の前では泣かんけど…本当はめちゃくちゃ泣き虫やねんで。これは俺から後輩へのプレゼントや。一回しかあげられんから貴重にな」
そして強く私の背中を押した。
「え、ちょっと、まっ…兄さん…！！」
「ここでAの顔を見るのはまだ早いもんな」
平たい彼の声は確かにどこかで聞いたことがあった。私は彼へと手を伸ばすがそれは届かず、湖の中に私の体は沈んでいった。
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白いろきつね。(プロフ) - 今更ながらに読ませていただきました すごい心を持っていかれるお話で涙腺が崩壊しながらも読ませて貰いました ループで心が壊れていく夢主さんを見ていて感情移入しちゃって、本当に心を揺さぶられる最高の作品でした。主様書いて下さり本当にありがとうございました! (2021年8月11日 0時) (
レス) id: 02f1a6e36f (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - 菜乃さん» コメントありがとうございます…！死に戻りは私の性癖でして、設定好きと言われて喜んでます。この作品はお気に入りの一つなのでコメント頂けて幸せです。こちらこそありがたいお言葉をたくさんありがとうございました。またどこかでお会いできることを願っております (2020年6月27日 19時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - ・ちょこみんとさん» コメントありがとうございます…！流した涙がもったいないですよ（そっとハンカチを差し出す）本当に素敵なお言葉をありがとうのざいます！ちょこみんとさんからの言葉で今後も文字書きとしてやっていこうと思います。ありがとうございました…！ (2020年6月27日 18時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
菜乃(プロフ) - 今更ながら一気に読ませていただきました…！めちゃくちゃ号泣しました…！このお話設定やストーリーも鳩山さんの文字の書き方も全部が好きで勢いでコメントしてしまいました…。素敵な作品をありがとうございました！！ (2020年6月27日 15時) (レス) id: a5b7bd47a4 (このIDを非表示/違反報告)
・ちょこみんと - 全話一気に読まさせて頂きました！涙がボッロボロに出ました…感動します…鳩山さんの作品が大好きです！これからも頑張って下さい！ (2020年6月27日 15時) (レス) id: 87dd4c4135 (このIDを非表示/違反報告)
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