あいに祈りを ut (ののみや) ページ7
最初から叶わない恋だと知っていた。
これが主人に対する敬愛を超えた恋慕であることに、気づいたのはいつの事だっただろうか。
白亜のお屋敷の中庭で2人でこっそりお茶会を開いたり、ガヴァネスから逃げる彼を匿ったり。
成長し彼が寄宿学校に通うようになってからはそんなこともしなくなったけれど、年頃になっても尚、私と彼はメイドと主人という距離をほんの僅かに超えた関係でいた。
けれど彼は貴族で、私は彼に仕えるメイド。
母が奥様に仕えるメイドであったこともあり、メイドの身には十分すぎるくらいの教育を受けさせてもらっていた。
だが、どんなに教養を得た所で所詮庶民の出自である。
どれだけ距離が近くても、この身分の差は越えられない。
それでも、私は彼の傍で仕えていられるだけで幸せだった。
私の人生はある時大きく変化する。
冬の寒い朝、窓越しに降り積もる雪を眺める彼はぽつりと私に告げた。
「だぁれにも、秘密やで。俺な、グルッペンが国造るの付き合うことにしてん」
「…先日いらしていた方、ですか」
この間屋敷にやってきた金髪の彼を思い出しながら、その決意を受け止めた。
「そう。俺はこの家を出る。Aも、ついてきてくれる?」
その藍色に不安を滲ませた彼に愛おしさが募る。
答えなど一つしかあるはずが無いのに。
彼も、そんなことは良く分かっているはずなのに。
「私の仕えるべきは鬱様ただ一人ですわ」
「喜んで、お供いたします」
しばらくして、二人は手を取り合い屋敷を飛び出した。
屋敷に残した母や奥様に思いを馳せることはあれど、彼を選んだことに後悔などなかった。
国境を越え、また一つ国を跨いだその先の地。
それが今彼らが治めている国だ。
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作者名:軍パロを愛する連合軍 x他11人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2020年6月1日 12時