覚悟なんて後付けが丁度いい ページ45
どれほど時間が経ったのだろうか。私は木に背をつけて目を瞑っていた。目の前で行われている戦いから目を背けて、ただこの戦況が落ち着くことを願っていた。そんな時だ。
「俺らの武器を放るなや」
地面に転がったそれを拾い上げて誰かに手渡される。肩を上下させて立っていたのは土埃を被ったロボロ隊長だった。
「生き残りはお前だけやな」
低い声で彼は言う。
こくりと頷いた私を見て彼は「軍人として戦う覚悟はあるか」と尋ねる。数秒の間。私のいる状況を見れば、覚悟があるかなんてすぐにわかるはずなのに、彼は目を離そうとしない。
「俺らが崩れたら、終わりやで」
「…あ…」
「お前は何のために国を背負ったんや。同胞が死に、国民も危険に晒されているというのに隠れるだけなんか。──最前線で戦いたいんやなかったんか？」
図星を突かれて声すら出ない。
「戦況なら走って確認してきた。……ここじゃ、建物が崩れて通信には不向きや。電波確認しながら走る。行けるか」
それは命令ではなかった。私の意思を汲み取ろうと、戦う覚悟があるのか問うようなもので。
「…やります…やらせてください！」
私の覚悟に彼は強く頷いた。
一秒、一刻と無駄に出来ない中で彼に続いて走りだす。その間も、己の武器となるものは決して離さずにひたすらに応答を待った。
砲弾が飛ぶ。銃声が聞こえる。それでも、私達は振り返らずに最善のために走る。
「…こちら…通信本部…」
走りながら、何度も何度も声を出す。近くにいる敵はロボロ隊長が正確に撃ち倒していく。その背中は大きくて、私も負けじと足を引きずりながら前だけを向くのだ。
「ｻﾞｯ…こちら軍事本部…ｻﾞｻﾞｯ…通信兵…か…ｻﾞｯ」
「こちら、通信本部…！」
今にも折れそうだった心に、支えが出来る。
「ロボロ隊長…つながりました…！」
「…俺に報告より先に戦況を伝えるんや！あほ！」
「す、すみません…。こちら通信隊。本部が襲撃されました。生存者は数名。ただちに応援を…繰り返す…」
私の武器は、長身な体でも、的確な射撃でも、優れた対人技能でもなかった。どこにいたって枯れることのない澄んだ声。それが私の武器だった。
国を守る為に軍人は存在する。そんな彼らが最前線で戦うためには彼のような人がいて、成り立つのだ。
私の知らない軍人の在り方に入隊してすぐのことを思い出す。
灰色の戦場で、子供と変わらぬ体格をしてをなお、折れないその姿は、紛れもなく──軍人だった。
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作者名：軍パロを愛する連合軍
x他11人 | 作者ホームページ：なし
作成日時：2020年6月1日 12時
