似合わぬワルツも覚めぬ夢なら ページ33
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別段歯の浮くような台詞を浴びせられたわけではない。けれど、彼の持つ赤色が似合う、なんて。それは綺麗だと言われるよりずっと私の心を浮つかせる。
｢……ら、らしくないこと言うね｣
｢らしくないダンスなんてしとるから、口が滑ってん｣
元より君に染まりきっている、と体で表すためのこのドレスだった。乙女心にとんと鈍い彼に裏の想いが伝わっているとは思えないが、それでも最上級の言葉をもらえたことについ本来の目的を忘れ、この状況に手放しで喜んでしまいそうになる。
｢なあ、A｣
｢なに？｣
｢顔まで赤くなってもうたな｣
｢……は、｣
間抜けに口が開く。
この男、普段は鬼の形相で私の尻を叩き、なけなしの色気を振り絞ってみても真顔で門前払い、誘い文句には｢そんな暇あるなら仕事しろ｣と無情に突き返す、鋼の理性を持った堅物である。
が、今。私の腰を抱き。焼け焦がれそうな眼差しをみせ。くつくつと余裕げに喉を鳴らす。そんな目前の彼は果たして本当に私の知るトントンで間違いないのだろうか。
｢や、めてよね、今日のトントン、積極的で困る｣
｢今日のお前はやけにしおらしいやんか｣
｢……いつもですぅ｣
｢っはは、よく言うわ｣
珍しいもん見れた、なんて言ってまた笑うトントンがもう眩しくて仕方ない。視界にはチカチカと瞬く星屑が飛び散っていた。
困った、本当に困った。半ば諦めかけていた想いが、また、花弁を開きそうで。
｢A｣
ゆっくりと二人の足が止まる。気づけば演奏もあと少しで終わりといった雰囲気だった。
しかし足を止めるには些か早い。
腰を抱いていた腕がするりと解けた。そうして彼の指先が、どうしてか私の頬にそうっと滑る。
赤と視線が絡み息を飲んだ。かさついた彼の親指の腹が仮面の下に潜り込み、目元をなぞる。なにを、しているんだろうか。
無意識に息を飲み呼吸止めた。ゆっくりとこちらに顔を寄せるトントンにまさか、なんて期待が過ぎる。
煩いなんてもんじゃない心臓の高鳴りに苦しさを覚えながら、額が触れ合いそうな距離に迫った時。―――トントンにキス、される。なんて、私はきゅっと目を瞑った。
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作者名：軍パロを愛する連合軍
x他11人 | 作者ホームページ：なし
作成日時：2020年6月1日 12時
