【d!】アキレアの祝福を【企画】 (ページ31)

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月は霞んで星が瞬くページ31

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　追手により手を縛られ、Aは森の中休む間もなく歩く。長いこと走ったせいで彼女の足は限界を迎えていたが歩む速度は落とさない。

例え、それが己の最期になるとしても。
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　木々が生い茂り、薄暗い印象であった森の中をついに抜ける。正確な時間こそ分からないが、空にはうるさいぐらいに星が瞬いている。

　もうAに後悔はなかった。
転んでしまって泥だらけになっていても、最後に写真ではあったが彼の顔が見えたから。

彼と過ごした大切な思い出を頭に思い浮かべればそれだけで幸せであったのだ。

　目を馳せて感傷に浸っていたその時、Aの後ろ手を縛るロープを持った男が急に倒れた。うっと鈍い声を出して倒れる男達。風にのって何がが飛んできているが、それは暗闇の中では何が起こっているか不明のままだ。

　Aが目を細めて、じっと一箇所を見つめればそこには王国の旗を持つ軍人達がいた。壊滅したと思った自国の軍はどこにその数がいたのか、と疑問に思うほど大勢で、Aを捕らえた男達を囲んでいる。

　Aの視線は自然と一人の男に注がれる。

「な、んで……あなたが、」

　疑問は心に生まれるだけではなく声に出てしまう。兵の中でも先頭に立った男は、忘れられるはずもない彼だったのだ。

「に、兄さん……？」

　助けがきた安堵からかAの足は力なく地面に着く。彼女の前に近づいてきた男は、優しい笑みを浮かべたまま「あの時の返事まだ出来てないもんな」と一言放つ。

　聞きたいことはたくさんあるのに、向けられた手を見て言葉はうまく出てこない。Aもまた彼へ向けて手を出すと、しっかりとその手は握られる。

「……Aが満天の星を綺麗と言って初めて、俺はその横にある月に気付けるんや」

寡黙な彼の精一杯の返事は、小さな愛が確かに詰まっていて、Aはついに泣き出してしまった。死ぬことなんて怖くはなかった。なのに、今、この男の手を離すことが何よりも怖くて、でも幸せで。

　言葉にできない感情が、涙となって溢れてしまう。

Aにとって重要なのは、彼が自国の軍服を着ていたことでも、彼がこの場に居たことでもない。ただひとつだけ。数多の人々の中から、自分を一番に救い出してくれたことだ。

博愛主義といわれ続けたお姫様は、ただ一人の寵愛を受けることをずっと望んでいた。だから今、それが幸せで泣いてしまうのだ。
　厚く重たい雲に隠れて月が霞む、その隣では星々が瞬いていた。