それはきっと間違いではなかった syp （鯉口） ページ23
✾
「くだらねぇ理想だ。
本当に淘汰されるべきなのはどちらなのか分かっていないんだ」
ショッピは毎年この日になると冒頭の言葉を思い出す。
決して忘れぬと誓ったわけでもないのに、たばこに火をつけて、一度目の煙を吐き出すふとした瞬間に思い出すのだ。
心に深く沈んでいるわけでもない。
むしろ紫煙のようにゆらゆらと軽い。
しかし必ず一年に一度のこの日に思い出す。
今日はショッピがこの国に引き抜かれた日だった。
＊
ショッピは、元は別国のただの一般兵だった。
階級はもっておらず、特に目立つような兵士でもなかった。
この国に来たきっかけは、元いた国が属国になったからだった。
もう十年近く昔の話になる。今ではショッピもそろそろ三十路入りする年齢になっていた。
「思想に毒されるとろくなことがない」
そう言ったのは自分の先生だった。
ショッピや、他新兵がいた士官学校の先生で、教官といつも呼ばれていた。
教官は軍人の中では珍しく女性であったが、とても厳格な人だった。
年は若くもなく老いてもいない。
しかしこの国の軍人にしては若くして階級と大きな仕事をもった人物であった。
見た目からして年齢は今のショッピと同じくらいだと言えよう。
彼女は厳しい人であったが、理不尽な教育は決してしなかった。
同期の新兵からは、やはり怖い人とイメージを持たれてはいたが、全く嫌われてはおらず、むしろ敬慕されていた。
ショッピもその一人で、齢15で士官学校に入学した彼は入隊してすぐに彼女からの指導を受け続けた。
その2年後の卒業の日、ショッピは決して良い成績で卒業したわけではないのに、彼女は彼に花を贈った。
彼女は平等だった。
成績の善し悪しは関係なく、教え子全員の面倒を見ていた。
だから卒業と共に花を贈られるのは当然のことだったのだ。
ショッピは17歳で正式に軍に入隊し、幸運にも戦争を幾度も生き残った。
それを耳にした教官の彼女は、笑顔で彼の頭をなで続けた。
ショッピが一番嬉しかった思い出だった。
「先生、質問良いですか」
「お前はもう私の生徒ではないんだけどね」
「この国の若い兵士は、卒業してもみんな貴方の生徒ですよ」
「……で、質問は？」
「先生はどうして軍人になったんかなって」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 125人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：軍パロを愛する連合軍
x他11人 | 作者ホームページ：なし
作成日時：2020年6月1日 12時
