褒美がないなんて聞いてない ページ37
剣術大会まで残り数日と差し迫った頃、エーミールの協力を得たAは真っ黒なマントを天井に掲げた。
「みて、ゾム、エーミール!」
子供のように(実際の彼女の年齢は成人している)無邪気に笑うAに二人は笑いながら拍手を送った。
「不器用ながらにいい出来やん」
「ふふ…そうでしょう!ここまで上手くできるとは思いませんでしたわ」
「何度も何度も失敗はありましたが折れずに頑張りましたからね。合格です」
エーミールがグッドサインを出したのでAは自らが施した黄金に輝く翼を撫でた。もちろん彼女はザ・不器用の人間なのでその翼は歪んでいる。それでも遠目から見れば翼はキラキラと立派に輝きを放っていた。
Aはこのマントをひとらんらんにあげようと思っていた。自分を歓迎パーティーのパートナーとしてくれたことへの恩返しをしたかったからだ。出来たらもうあとは渡すだけ。Aは二人へ、ウインクをしてマントを袋へいれると部屋を勢いよく飛び出した。残された二人は「元気ですね」「元気やなぁ」と年下の妹を見るかのような視線を開きっぱなしになった扉に向けていた。
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日が暮れた時間、男子寮の前でAはちらちらとその中を覗き込んでいた。
「あれ、あんたは…」
「…あら、」
声がかかり振り返れば、相変わらずだらしなく制服を着た男が大剣を引きずりながら寮へと戻ってきていた。その顔は見覚えのあるものだ。
「… シャオロン・ウォン・リオルディ」
Aが小さく呟けば、口元を緩めたシトリンは歯を見せた。
「わざわざ俺のこと調べたん?皇女様はえっちやなぁ」
「な…っ! へ、変なこと言わないでくれますか!?これを拾っただけですわ」
たまたま制服のポケットにいれていた彼の生徒手帳を投げるように渡す。それをキャッチしたシャオロンは大剣を持っていない方で取ったからか一瞬だけ顔をしかめた。
「……まだ、手は治っていませんの?」
Aはそんな彼を心配そうに覗き込む。
「もう、治ったわ」
ゆっくりと手を回すがそこには包帯が巻かれている。自分でしたのが歪に曲がっている包帯に「あなたも随分と強情ですのね」と笑った。
「そんで皇女様は誰をお探しなん?」
「言っても分からないと思いますが」
「おいおい、せっかく人が礼をしたろ思っとるんやで。素直に好意は受け取らんと」
「ふふ。それもそうですわね、ひとらんらん様を探してるんです」
「ひとらんならおらんけど」
「え、」
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枕の怨念ぅ - 凄く親近感の湧く小説でした!面白いです! (11月18日 16時) (レス) @page5 id: 7f1a8024d0 (このIDを非表示/違反報告)
くれぴと - 夢主様考えることが言い方悪いけど欲望に忠実すぎて逆に幼子みたいで少し可愛らしいと感じる自分がいる...これうちだけかな? (5月7日 20時) (レス) id: e2b452ca9a (このIDを非表示/違反報告)
春風駘蕩(プロフ) - コーネコネコーネは笑う⋯めっちゃニヤついてしまった⋯ (2022年9月17日 23時) (レス) @page14 id: 34351208ff (このIDを非表示/違反報告)
暁郗 - knさん…名前めっちゃコネるやん…不覚にもねるねるねーるねを思い出してしまった…。すみません…。 (2020年12月11日 5時) (レス) id: 14cb33816d (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - こすずめさん» コメントありがとうございます…!一応チラッとだけ概要に書いているのですが、バチコリと読んでおります!元ネタは某なろう系のものです!お褒めの言葉並びに応援のお言葉をありがとうございました…!本当に励みになっております! (2020年9月14日 2時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
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