【d!】断頭台で首を斬られたのでもう一度人生やり直します

平和は一時的なもの ページ34

Aは今日も今日とてノルベルト学園の一年生として授業に励んでいた。クラスメイト達との交友関係を築きつつ、実に優雅な学生生活を過ごしていたのだ。午前の授業の終わりを告げるチャイムがなり、数人の令嬢達とランチに向かう道中。平和な学生生活に事件は起きた。

　貴族王族の通う学園で、慌ただしく響き渡る足音。

「おーい、そこ通してやー！」

　横を向き、お喋りに夢中になっていたAは気付かなかった。みんなが避けるように廊下の真ん中を開けていたことに。

「うわっ！！」
「ひゃあっ！？」

　鈍い衝撃音が鳴り響く。Aの鼻は何やら硬くて生温かいものに当たったのだ。いたた…と鼻をさすっていれば目の前ににょきりと手が生えてきた。

「すまん！この詫びはどっかで！」

　その手を掴むと、力尽くで立たせられまたもやバランスを崩す。随分と乱暴な、と鋭い目つきで声の先を睨むように視線を向ければそこにいたのは、快活と陽気さを持ったシトリンの瞳を持つ男であった。紳士さの微塵もない男は制服を着崩しており、どこか荒々しい雰囲気さえ感じさせる。

───わたくしが最も関わりたくないランキング第一位の不良ですわ！！

　Aはそんな男に手を取られている状況であり内心パニックに陥っていた。シトリンはAに怪我がないことを確認すると真っ先に逃げようと走り出す。しかし………「いったい！！…ですわ…」とAの声と何かに引っ掛かったように進まない体に、すぐに足を止めた。

「うわ髪の毛が絡まっとるやん…！ほんますまんな、今は時間がないねん。…ちょっと、あんたを借りるわ」
「え……なにを、って！！きゃあ！！」
「ちょーっとばかし変なのに絡まれてなぁ。大丈夫大丈夫、俺撤退戦は得意やねん」

　髪の毛を解くなんてことはせずに、男はAごと抱えた。そして走り出す。ぐわん、ぐわんと揺れる視界の中でAが見れたものとは、シトリンを顔を真っ赤にして追う上級生であった。

.
..

「はぁ…はぁ…死ぬかと、思いましたわ…」
「何であんたが疲れとるん？おもろいんやけど」
「何であなたはそんなに元気なのですか…理解できませんわ」

　猫をかぶるなんてことを忘れてAはシトリンに冷めた視線を送る。一方で男は愉快そうに笑うだけだ。自身のシャツに絡まったAの髪の毛を器用に外して、彼は手で髪の毛を掬う。

「あんたの綺麗な髪の毛が無事で良かったわ」

　彼の背から見える太陽が神々しく輝いた。

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