【d!】断頭台で首を斬られたのでもう一度人生やり直します

全身全霊を持って、 ページ32

神父のせいで教会恐怖症になりそうなAであったが、王宮で出されたケーキを食べればそのことも忘れ去られてしまっていた。仕事の早いエーミールに文官を集めてもらい、今の貧困街の現状の打開策の会議を開く。もちろんここからは本業者に任せっきりであるため、Aはノータッチだ。

　しかし、彼らに強く言う。「A・ラ・ストラスブールの名にかけて絶対に解決しなさい」と。急ピッチで進められた計画はすぐに実がなる。

　彼らを苦しめていた謎の流行病の正体が分かったのだ。その正体は、ストラスブールが発展したことによる川の水質汚染。貧困街の住民が使用していた水は人間にとって有害物質が混ざったものだった。
　まだ症状の出ていない住民達は川を使用することを禁止し、生活に必要な水分はすべて国が負担することとなった。そして、さらに貧困街に病院の設立、貧富の差を埋めるために公務を彼らに与えて賃金も出すように配慮する。

「ほんまに、みんなが助かるんやな」

　計画を一から見ていたゾムは瞳に涙を浮かべていた。

「わたくし、きちんと約束事は守りますので」
「目を疑うわ……まだ先やとしてもあの街に病院が経つんやろ…。これで、みんな、」
「ふふ。少しずつ元気になりますわ」

　我が物顔で微笑んでいる彼女だが、もちろんこの件については何もしていない。ただ文官に"お願い"をしただけだ。

「A・ラ・ストラスブール…」

　ゾムがそんなAの名前を呼ぶ。

「どうされました？」
「俺の神様はやっぱりあんたや。………俺は、これから先───全身全霊を持ってあんたを護る。あんたが火の中へ飛び込めって言うんなら飛び込んでみせる。あんたの進むべき未来を、切り開いてみせるわ」

　ゾムは、汚れたナイフを聖剣のように持つ。その姿は紛れもなく騎士そのものであった。それに応えるようにAは真っ白で汚れひとつない手でナイフを受け取る。

「ゾム。…あなたの働きに大いに期待しますわ。あなたはわたくしの認めた騎士ですもの」

　準備のいいエーミールがストラスブール軍の紋章が入った剣を持ってきた。ナイフと交換するようにAはそれを持ち、ゾムへと与える。

　こうして、未来のストラスブールを支える騎士団団長が誕生した。貧困街から生まれた彼は国民に大いに支持され、ストラスブールの女王の左腕となり名を轟かせる。彼はのちに同じく騎士として女王に仕えるトントンと出会い、そして親友となるのであった。

春の星は微かに瞬く→←未来を見据えるトルマリン

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す