【d!】断頭台で首を斬られたのでもう一度人生やり直します

未来を見据えるトルマリン ページ31

その場で出来ることを考えて、Aは神父へポケットにしまっていたいくつかの宝石を渡す。

「オスマン神父。これで清潔な水と食べ物を。数日分は困らないと思いますわ」
「…何から何まで、本当にありがとうございます」
「数日あれば、王宮からの援助が届くはずです。それまで任せきりになってしまうことをお許しくださいませ」
「えぇ…そんな、感謝することはあれど非難など…」

　感動的な場面ではあるが、心の中でAはほっとため息をついていた。大好きな宝石を手放すのは惜しい。しかし前世での記憶がそんな彼女を変えていた。

──「A姫だ！すべて剥ぎ取れ！」
──「これは国民の血だぞ！お前が持つべきものではない！」

　怒れる国民や兵により追い剥ぎにあったのだ。自分に暴力を振るい暴言をかけてきた人物に取られるぐらいならば、自分の味方になってくれそうな人物に与えた方がよっぽどマシ。単純明快なAの考えは常に自分ファースト。それだけは変わらないのだ。

　煌びやかな宝石を前に固まるゾムを見て困ったように笑ったエーミールはそんな彼の背を押していた。そろそろこの教会とはお別れだ。王宮に帰ればやるべきことはたくさんあるのだから。

　自分たちを見送る神父。ゾムは今日からAの護衛として役割を果たすそうでエーミールと呑気に談笑している。

　教会から出る直前に踵を返して、神父を見やった。グリーントルマリンが優しげにこちらを見つめている。しかし、Aは伊達に二度目の人生を経験していなかった。警戒心の強い、その瞳にくすりと笑みを浮かべてそっと彼にだけ聞こえるように耳打ちする。

「神父様、次にお会いする時はそのお顔をもう少し和らげてくださいませ。かしこまった口調もなくて結構ですわ」

　その言葉にトルマリンがゆっくりと開いて口角を上げる。

「……姫殿下も、心の奥底の気持ちを正直に言ってな」

　また、三日月様にトルマリンが細まった。

「えっ…？」
「自分の欲望に素直に従うんは人間として素晴らしいことやと思うで」
「お、すまん神父…？」
「俺は欲望のままに生きる素直な姫様が気に入っとるんよ。これからよろしくなぁ」

　にっこり、彼は笑う。空の日差しを浴びてそれはまあ、神秘的に彼が笑っていた。Aは開いてはいけなかった箱を開けてしまったような気がしてならない。読みきれない表情を浮かべて今度こそ別れの挨拶をした神父は、最後までブルーサファイアの君を見つめていた。

全身全霊を持って、→←与えられた選択権

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す