色のない街 ページ25
Aの住む王宮が水が溢れて木々や花々の咲くオアシスであれば、ここは枯れ果てた砂漠だ。Aはそんなことを思いながら色のない街を見渡していた。
「思ってたよりも、ひどいですわね…」
思わず鼻を摘みたくなるような強烈な臭い、瓦礫と塵の積まれた到底家とは言えない平面な建物がAとエーミールを出迎えた。皇女であるAの顔色は悪い。しかし顔を出したまま歩く彼は意外にも平然と貧困街を歩いていた。
Aよりも数歩前を進む彼の背をきゅうと掴んで寄り添うように歩いていれば、しばらくして彼の歩みは止まる。
「…エーミール…?」
被さったローブのせいで彼がよく見えない。ちらりと彼の背から顔を出せばそこには一人の男が二人に対峙するように立っていた。
「何の用があってここに来たんや。"エーミール"」
それは彼の名前を知っているはずのAの声とは別の声。フードを少し上にあげ、その顔を見やればそこに居たのはエーミールと同じぐらいの背丈の青年であった。栄養が足りていないのか痩せてはいるものの、腕や足にはしっかりと筋肉がついている。
見るからに腕っ節は強そうな男が、低い声で睨みつけるような視線をエーミールに向けていたためにAは震えが止まらない。
「お久しぶりですね、ゾムさん」
彼の穏やかな声を聞き、目の前の男が唇を噛む。
「俺らを裏切ったくせにのこのこと帰ってきて…久しぶりやて…?馬鹿にするのもええ加減にせえよ!!」
瞬く間に距離を詰めた男がエーミールの首を絞める。彼は抵抗をしないで、首を絞める男の手に自身の手を添えるだけ。呼吸が苦しいのだろう。顔はだんだんと赤くなってきている。
ビビリで臆病で自分ファーストのAであったが、目の前で従者が殺されそうになっていて見て見ぬ振りを出来るわけがない。目いっぱいに涙を浮かべて、汗を流しながらエーミールの首を絞める男へタックルをかます。
「お、おやめなさい…!」
小さな鳥…カナリアが
緩んだ手からエーミールはなんとか逃れて、ごほっごほっと咳き込む。
男が自分を邪魔したAを見やった。そこで初めてエーミールに連れがいることを知ったのだろう。
運がいいのか悪いのか、そのタイミングで強風が吹き荒れる。そして、その風は彼女の美しい髪を隠すフードを外してしまった。
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枕の怨念ぅ - 凄く親近感の湧く小説でした!面白いです! (11月18日 16時) (レス) @page5 id: 7f1a8024d0 (このIDを非表示/違反報告)
くれぴと - 夢主様考えることが言い方悪いけど欲望に忠実すぎて逆に幼子みたいで少し可愛らしいと感じる自分がいる...これうちだけかな? (5月7日 20時) (レス) id: e2b452ca9a (このIDを非表示/違反報告)
春風駘蕩(プロフ) - コーネコネコーネは笑う⋯めっちゃニヤついてしまった⋯ (2022年9月17日 23時) (レス) @page14 id: 34351208ff (このIDを非表示/違反報告)
暁郗 - knさん…名前めっちゃコネるやん…不覚にもねるねるねーるねを思い出してしまった…。すみません…。 (2020年12月11日 5時) (レス) id: 14cb33816d (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - こすずめさん» コメントありがとうございます…!一応チラッとだけ概要に書いているのですが、バチコリと読んでおります!元ネタは某なろう系のものです!お褒めの言葉並びに応援のお言葉をありがとうございました…!本当に励みになっております! (2020年9月14日 2時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
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