【d!】断頭台で首を斬られたのでもう一度人生やり直します

一際目立つのは力の宿るオニキス ページ19

夜光虫が主役となる時間帯、Aが彼と約束の場所に訪れれば彼は背を壁につけて待っていた。暗闇の中、外灯に照らされて彼がこちらを向く。こちらを向いた彼を見て、Aは言葉を失くした。

───い、イケメンですわ…！初めて会った時から美しいと思っておりましたけどたった数日で見違えるように…。

　彼はトレードマークであった眼鏡とマスクを外していた。西洋の男に比べれば彼は小さい部類(Aがそんな彼より小さいため目立たないが)に入るのだろう。しかし、東洋の男は神秘的な服装をしていた。紋の入った羽織に女性のワンピースのようでありながら二股となっているパンツを履いている。上質な絹を使っているからか艶のあるそれは馴染みの良い肌質であった。なんとも不思議な装いであるが、それがまた黒髪の君にあっている。

「遅くなっちゃったね」
「あ…お、お待たせして申し訳ありませんわ」
「Aじゃないよ。俺の方」
「？」
「俺は、倭国の一振 蘭。君たちには馴染みのない名だからひとらんと呼んでくれ」

　倭国。それは東洋に浮かぶ奇跡の島国。
世間知らずなAにとってその国がなぜ、そう呼ばれているかは分からなかった。彼女が思うことはただひとつ。
──東洋ならわたくしの亡命先に持ってこいですわね。

どこまでも欲望に忠実な女であった。

.

歓迎パーティーの会場に居た者は全員目を疑った。それもそのはず。今日の主役と言っても過言ではない、ストラスブールの姫君、その隣にいた男が少々…否、かなり意外すぎたからだ。

「なぜ、あのような男が…？」
「ゼネバス帝国より、あんな訳の分からない奴がいいって言うのか」

　ひとらんに突き刺さる視線はいいものばかりではなかった。しかし、男として彼もまた顔をあげる。倭国男児に二言はないのだ。

「Aはさ、本当に俺でよかったわけ？」
「えぇ。あなたが良かったの」

　そう言って笑いかけてくれる彼女はひとらんにとっての女神だ。顔を少しでも隠そうとしていたマスクと眼鏡を外して、深く被っていた帽子も取り、目にかかっていた前髪を切った。
　それはすべて、目の前の彼女の為だ。

「……俺も、Aがパートナーになってくれて良かった」

　小さな呟きはしっかりと隣の彼女に聴こえていたようで、彼の手を握った彼女がきゅうと優しく力を込める。ダンスの演奏が始まり、ひとらんはゆっくりと曲に身を任せて彼女を一際美しくみせようと奮起するのであった。

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