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「どおりで、俺のこと知らねーわけっスわ」
そう呟く黄瀬くん。
「黄瀬くん、そんなに有名なの?」
私が問いかけると、ちょっと残念そうな顔をしてから、自慢げな顔をして語った。
「キセキの世代って聞いたことあるっスか?」
「ああーなんとなく」
「俺もその一人なんスよ!」
彼はキラキラの笑顔で説明してくれた(自慢してきた)。
「そうなんだ」
「えー反応薄くないっスかー?」
「だって、別に興味ないし」
「Aっち、辛辣っス……」
黄瀬くんの人柄なのだろうか、初対面だけど割と話しやすい。高尾くんと雰囲気が少し似ている気がしなくもない。
肩を落とす黄瀬くんを見て、ちょっと可愛いと思ってしまい、自分でも少しだけ口角が上がったのが分かった。すると、それに気づいたのか、黄瀬君くんが私に尋ねる。
「もう大丈夫そうっスか?」
そう聞いた時の彼の顔には、とても柔らかで、美しい笑みが浮かんでいた。その言葉で、先ほどの出来事を思い出す。
正直、まだ恐怖は残っていた。
「……たぶん」
私は目を逸らして誤魔化すように呟く。
「……思い出させちゃったっスかね。ごめんなさいっス」
黄瀬くんが胸の前あたりで両手を合わせて、謝る素振りをする。
「ううん、そんなことないから大丈夫」
黄瀬くんは決して悪くない。むしろ、助けてくれたんだから感謝してる。でも多分、あの一瞬でトラウマを植え付けられてしまったんだと思う。
「……っ!」
恐怖が蘇り、視界がぼやけてきてしまう。私は黄瀬くんに顔を背けて、すぐに涙を拭うも、その涙は止まってくれなかった。もう、誤魔化せない。
「我慢しなくていいんスよ、Aっち」
黄瀬くんが私に優しくそう言ったせいで、完全に我慢できなくなり、私は泣いてしまったのだった。
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作者名:ぷよぷよぷよん♪ | 作成日時:2022年5月10日 16時