一人 ページ34
陽雅side
なんだろう、テレビの音がする。
何処かで聞いたことのある音楽。
ああ、これは光里が好きなミュージシャンの曲か。
確かこの前、新曲が出るって言ってたな。
今度、一緒に買いに行かないとな……。
…起きなきゃ……。
「……陽雅君！！」
まだ眩しい視界の中、目覚えのある人物が右へ左へと移動する。
でも、まだぼやけていてよくは見えない。
だんだんとはっきりしてくる意識の中、俺はその人物を目で追った。
「…………善野さん？」
名前を呼べば、くるりとこちらを向く。
きりっとした目に、優しい表情。
それらは、間違いなく彼のものだった。
「待ってて、今お医者さん呼んでくるから！」
そう言うや否や、足早に部屋を出て行った善野さん。
一人残された俺は、其処が病室であったことに気づいた。
上体を起こそうとするが、全身を激痛に襲われたので、もう一度ベッドに身を預ける。
ああ、思いだした。
俺、Aに刺されたんだ。
…よく生きてたな、俺。
……みんなは、光里は、Aは、元気かなぁ。
早く、会いたいな……。
ーーー
あの後、医者が来て、色々説明してくれた。
なんでも俺は刺されてから二週間近く眠っていたらしい。
そして、もうちょっとナイフの傷が深かったら、俺はもう助からなかったらしい。
今生きているのは本当に奇跡だそうだ。
「まあ、もう大丈夫みたいだし、早く退院できるように、明日から頑張ろうか」
そう言って、医者は病室から出て行く。
部屋の中は、俺と善野さんだけになった。
「……善野さん」
「何？」
「光里、元気ですか？」
「元気だよ。あの後、無事に目覚めた。でも、まだ入院中。あ、因みに、僕も隣の病室ね」
「えっ？」
思わず善野さんの方を見る。
「三日前にトラックに轢かれちゃってさ。全身打撲で、昨日までヒイヒイ言ってた」
大丈夫だよ、と笑う善野さん。
いや、大丈夫じゃないと思うんだけど。
「でも大分動ける様になったからね。特別に許可を貰って、君の目が覚めるのを待ってたんだ」
「ああ、それであの時、ここにいたんですね」
「そう言うこと。あ、まだ光里君に報告してないな」
そう言って善野さんはポケットから携帯を取り出し、電話をかけ始めた。
っていうか善野さんガラケーなんだ。
明らかに携帯に付ける大きさではない、よくわからないキャラクターのストラップがゆらゆらと黒いガラケーにぶら下がっている。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 90人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
もくもく@鬼灯なぅ - みーさん» あ、本当ですね！ご指摘ありがとうございます！ (2015年11月7日 1時) (
レス) id: 4a5e4162ae (このIDを非表示/違反報告)
みー(プロフ) - 報告書二枚目の、近所の大学生と若い警官数名が犠牲になった事件で、夜行が夜光になっています。故意でしたら、すみません。 読んでいてとても引き込まれる話で、面白いです。私もこんな風にかければなあ笑 (2015年11月4日 20時) (レス) id: bcd7e9b2cd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
