五十三話 〈肆ノ記憶〉 ページ13
四度目の夢。
目覚めるまでの間、少女はなぜこんな状況に陥っているのか考えた。
(夢は普通、その人の望んだ世界か思い出。この人のこれは多分思い出だな…)
一つ目は、一人の男を殺した。
二つ目は、一人の男に殺すと予告した。
三つめは、一人の男に救われた。
普通とは言えないが、どれもこれもAの思い出。記憶である。
そして四つ目。
これで最後だと、少女は本能的に悟った。
重い瞼が開かれる。
隙間から差し込んでくる日光が、忌々しいほど眩しい。
「…」
Aは無表情に少しの驚きを滲ませて、呆然と己の腕の中を眺めていた。
(…! この人、三つ目の時の…)
銀髪の綺麗だったあの青年が、Aの腕の中で横たわっている。
否、語弊があった。
Aが抱き締めているのは、身体だけ。
すぐ側に幸せそうに微笑む銀髪の青年の首が転がっているのが真実である。
彼の身体は無傷なのに対して、Aの身体には多くの傷が刻まれていた。
怪我の酷い所からは鮮血が溢れ続けている。
貧血を起こしているようだ、視界がぼやけている。
「――そいつはお前に斬られて、幸せだったろうよ」
傍で立っていた男がそう声を掛けた。
彼女の何倍も大きな身体の彼には見向きもせず、Aはただ茫然と、しかし初めて顔を歪めた。
「っう……ぁ…あぁ…」
直後、慟哭。
耳を塞ぎたくなるような悲しみと絶望に溢れた絶叫が、その小さな身体から発せられる。
天の神とやらに恨みをぶつけるように、Aは喉が潰れて血を吐き出す程叫び続けた。
72人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:名梨 | 作成日時:2020年1月12日 18時