五十一話 〈弐ノ記憶〉 ページ11
痛い。
喉の奥が、ビリビリと震えている。
なにか叫んでいるようだ。
「お前がッ…師匠を…ッ!!!」
(!)
意識がはっきりしたその時には、先ほどの河原とは違う景色が広がっていた。
雅な日本庭園がうかがえる、屋敷の一室。
そこでAは目の前の人物に抑える事のない憎悪を向けていた。
(この人、額に…)
何かの病気の症状だろうか、額の辺りが薄紫色に変色していた。
全てを優しく包み込むような、そんな雰囲気を醸し出している。
Aはとめどない憎悪を、そして鋭い
どうやらAはこの男に抑えきれないほどの憎悪を抱いているようだ。
(それより…なんでこの人包帯だらけなの?)
Aは体中包帯を巻かれていた。
恐らくその下には大きな傷がいくつもあって、彼女の身体にま今も激痛が走っているのだろう。
意識だけを担当するはずの少女も微かな痛みを感じる程の。
「…そうだよ、私が指示した」
「っ…!」
男の言葉に今にも飛び掛からんとするA。
彼女は何とかそれを耐え、しばらく黙った。
深い呼吸を何度も繰り返し、やがて「決めたよ」と呟いて再び鋏を男に向ける。
彼女は笑っているようだった。
口角だけが奇妙に上がり、目には憎悪が燃え盛る笑顔を。
「お前はいつか、必ず俺が殺してやる」
その言葉を合図に、また世界がぐらつく。
少女はもう慣れてきた気さえもし、素直に意識を手放した。
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作者名:名梨 | 作成日時:2020年1月12日 18時