42.病気の正体 ページ42
<SIDE翔太>
「…それじゃあ松村が言う…小さいときに巻き込まれた事件とか、
夢に出てくる包丁持った若い男って…」
俺は弟の話を聞き終え、恐る恐る尋ねた。
「その夢で見る倒れた女の人と男の人っていうのは、その事件の被害者、
つまり姉さんの実の両親で、包丁を持った若い男というのは姉さんの実のお兄さんです」
弟は前を見つめながら言う。
「…深澤先生が前に言ってた。薬でも手術でも治らない病気だって…。
まさか、このことだったのか?」
「そうだね。心が治らない限り不治の病、だね」
頭に研究室で聞いた深澤先生の言葉が響いた。
「はい。姉さんの病名は、解離性健忘です」
「…解離性健忘…?」
「簡単に言えば記憶喪失です。
あの事件がきっかけで、姉さんはあの日とあの日以前の記憶を失ってしまいました」
弟の言葉に松村が言っていたことを思い出した。
「…その日とその日から前の記憶が全然ないの」
「…その日以前って…じゃあ」
「…姉さんが事件に巻き込まれたのは7歳の頃です。
だから、姉さんには生まれてから7年間の記憶がないんです」
「…いや、でも事件を部分的に覚えてるだろ?」
「部分的に覚えていますが、お兄さんが姉さんを守るためにした行動という、
事実とは異なる記憶です。例え思い出せない記憶でも、
姉さんにとって恐怖として記憶されたのであれば、それは、ストレスになります」
「ちょっと待てよ。守るためなんだろ?じゃあ何で?
何で松村のお兄さんは忘れろなんて言った?
母親とあいつ守るためにやったんなら、正当防衛だろ?」
俺は弟に詰め寄った。
「…正当防衛の条件、ご存じですか」
「…え?」
「…正当防衛の定義、です」
弟は俺にそう尋ねた。
「…自分の身に危険を感じた場合は、自分を守るために相手を傷つけても罪に問われない…」
「…ええ、でもそこにはあってはいけないものがあるんです」
「…あってはいけないもの?」
俺の答えに弟はそう言った。
「…殺意」
弟はぼそりとつぶやいた。
「…お兄さんは事件が起きる前から父親に暴力振るわれてたから、
殺意を抱いてたってことか?」
「そうです」
俺の推測に弟は頷いた。
「んなの当たり前だろ。殺意抱かねぇ方がおかしいって」
「裁判でそんなことは関係ありませんから」
「…」
思わず黙り込む。
「…当時中学2年生だった照さん、姉さんのお兄さんは、
法廷で父親に対する殺意を自ら認めたんです」
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小鳥(プロフ) - しょぴたんさん» しょぴたんさん!完結して日数経っていますがこうしてコメントいただけてとっても嬉しいです。なべほくいいですよね…笑こちらこそ作品読んでくださってありがとうございました><またしょっぴーとは別の作品でお会いできるよう頑張ります! (2019年9月9日 22時) (レス) id: e764ad7d51 (このIDを非表示/違反報告)
しょぴたん - しょっぴーの作品なにかないかなーと思って出会った作品。北斗のことも大好きなので、推し×推しという最高の設定。いざ読み始めたらとても素晴らしい作品で一気に読んでしまいました!こんな素敵な作品に出会わせていただきありがとうございました! (2019年9月8日 22時) (レス) id: 3b873b3050 (このIDを非表示/違反報告)
小鳥(プロフ) - あーべちゃんさん» あーべちゃんさん!お読みいただきありがとうございました!面白かったという感想、とってもとっても嬉しかったです。何度も読み直していただくと新たな伏線?みたいなのが見えてくると思います!新作も楽しみにしていただけると嬉しいです! (2019年8月24日 23時) (レス) id: fc4bc2a384 (このIDを非表示/違反報告)
あーべちゃん - とっても面白かったです。終わっちゃいましたけど、これからも読み続けます! (2019年8月24日 22時) (レス) id: cbb25d61fe (このIDを非表示/違反報告)
小鳥(プロフ) - 神ななさん» 神ななさん!ありがとうございます!心に響いたようでとても嬉しいです。しっかり読んでくださったからこそだと思います。ありがとうございます。新作執筆中なので楽しみにしていただけると嬉しいです! (2019年8月24日 17時) (レス) id: fc4bc2a384 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小鳥 | 作成日時:2019年8月10日 21時