一言を重ねる ページ16
「樹」
たった一言で、俺を連れ戻したのは、アキ。
「んあ、あぁ…」
俺ってまじで最低だ、って
絶望で目の前の色が消えていく感覚。
それなのにアキは、俺の素肌をほっそい腕でキュウって抱きしめてくれた。
耳元で、ダイレクトに吐息がかかる距離で
俺の名前を呼んだ。
「樹」
「うん」
「なんて呼んでほしい？」
「は？」
暗闇の中で、聞こえるのは声だけ。
目が慣れて、うっすら白い肌とキラキラしてる目が見えた。
まっすぐにその目を見ても、
「何？」って真剣な顔。
「いいから。なんて呼んで欲しいの」
「…樹、くん」
その言葉を言ったと同時にまた俺をぐっと引き寄せて
「樹くん、優しくしてね」
その一言だけ。
その一言だけで俺は夢中になった。
「樹くん」
アキがそう口に出すたびに胸がうずいた。
満たされるような気持ちになった。
満たされなかったけど。
「シャワー、浴びたら？」
Aちゃんが前に北斗と見てた
恋愛ドラマを眺めながらぼーっとしてた俺に
アキが水の入ったコップを持ってきた。
「ありがと」
「樹らしくないじゃん」
「…」
「またお得意の"俺なんか"？」
「…エスパー？」
やれやれ、って顔。
俺の姉ちゃんって感じに思えてきた。
「まあ、首は突っ込まないけど、後悔しないようにしたら？」
「私たちも、そろそろでしょ」
"そろそろ"
もうやめにするってこと。
「ほんと、ごめん」
台所でごはんの準備してる背中に呟いたら、
あは、って笑ってた。
「樹に謝られるなんてなんか気持ち悪いからやめてくださいー」
「ごめん、あ」
「もううるさいから黙って？ごはんつくってるから」
台所に立つ後ろ姿に、
ちょっとAちゃんを重ねたのは秘密。
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つき(プロフ) - sailさん» 素敵なコメントまでくださって、とてもうれしいです（ ; ; ）こちらこそ、ありがとうございました。今日はいい夢が見られそうです。 (2020年12月10日 12時) (
レス) id: 7ed4157c8a (このIDを非表示/違反報告)
sail(プロフ) - とってもとっても素敵な作品すぎてコメントさせていただきました。ふたりのもどかしい距離にキュンキュンしました！素敵なお話をありがとうございました。 (2020年11月9日 13時) (レス) id: 68c0c1ca67 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：つき
| 作成日時：2020年5月5日 0時
