弐十九 ページ29
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「お世話になりました」
気まずい気持ちのまま、上司に頭を下げた。
顔を上げると、苦笑いした彼がいて。
「腹の内はそう思ってない癖に。
やったーって大喜びだろうに」
そんな彼に愛想笑いを返して、玄関先へと向かう。
荷物運びに呼ばれた千影が待っているはずだ。
上司は最後まで愚痴を言いつつも、運んでくれるのを手伝ってくれていた。
仕事上では迷惑しか掛けられてこなかったが、こういうところを見るに別に悪い人なのではないかもしれない。
そう思いながらも、かつての被った仕事量を思い出して、そんなことないかもと思わず顔を顰めていた。
「プライベートのこと、もっと言ってくりゃあ、見合いなんて恥ずかしい真似しなかったのによう…お前ときたら」
どうやらあれから上司は父親からひどく絞られたらしいと松平から聞いた。
そんな松平も消沈したような声で話していたところを見るに、彼も同様だったのだろう。
「先輩には沢山仕事振られて、凄くむかついてたんですけど」
「おい」
「見合いという機会を設けていただいて、感謝してます」
「は?」
ちょうど玄関口につけば、一台の車が待っていた。
A達の姿に気が付いたのか、中から運転手が現れて、
「…えっ。千影がくるんじゃ」
「しゃあねえだろ。あいつ今やらかして怒られてる最中なんだから」
沖田が面倒臭そうにAの荷物を奪うようにして受け取った。
(もしかしたら、土方さんが来るのかも)
そう勝手に乙女めいたことを妄想していたが、現実はそうはいかないらしい。
沖田は上司を一瞥し、ふんと鼻を鳴らす。
そして、軽く礼をして何も言うことなく車に乗り込んだ。
荷物を運び込み、
「では。失礼します。短い間でしたがありがとうございました」
と形式的に挨拶して、車に乗り込もうとした時、
「例の副長さんとお幸せに」
力強く手首を握られて振り払われた。
手首に残る痛みを気にしながら、車は屯所へと向かう。
流れていく車窓を見ながら、なんとなく感傷に浸っていると、
「残念でしたねぃ。俺で」
沖田はにやにやと笑いながら言う。
その感覚が懐かしくて、嬉しくて、
「ああ、今なんかまた戻ってこれたなって気がしました」
「んだよ、嫌味で返すなんてより生意気になりやがって」
なんだか泣きそうになる自分がいた。
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Nattu(プロフ) - amefurasi750さん» コメントありがとうございます!とても嬉しいです;;銀魂のキャラはどの子も魅力的なので自分もそれをあまり崩したくない意識で書いていました^^どストライクとのお言葉嬉しすぎます;;本当にありがとうございました! (2022年12月13日 0時) (レス) id: 3f1ef1106e (このIDを非表示/違反報告)
amefurasi750(プロフ) - ありがとうございました!すごく心に残る話で、土方さんや沖田君たちの性格がそのままで安心して読むことができました!尚且つ土方さんと主人公ちゃんとのイチャイチャ具合がドストライクでした! (2022年12月8日 8時) (レス) @page32 id: 0bed4b2b02 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2022年9月1日 23時